多彩な画材、多彩なテーマ
長縄えい子の画業
作風や色合いが違うが、描かれている大人から子どもは、どこかほんわかとしていて、懐かしい。郷愁にかられるような気もした。この感じどこかで……。
■写真:時間をかけて作品を楽しむ入場者
手びねりした粘土の人形を素焼きし、絵づけした故松本節太郎さんの素朴な「下総玩具」を見た時と同じ印象だ。会場には大作から挿絵の小さなものまであるが、「人」への優しい眼差しが貫かれているようにも感じた。
企画した大洞院ギャラリー運営委員会の三坂俊明さん(73)も「(作品を引き出す)引き出しの多い彼女ですが、作風が変わってもすぐわかりますよ。人間の気持ちや優しさ、人間愛が出ていますからね。こんな作家が柏にいることを知ってほしい」と力説した。
■写真:大作も数多く出品された
特に今回は長縄さんが東葛エリアの文化団体や地元商店街から頼まれて制作したポスターやチラシ、デザインしたTシャツ、表紙を描いた書籍など125点が目を引く。長縄さんも「今回は生まれて初めてなんだけど、自分のものより、頼まれて作ったものがメインなのよ」と説明した。
■写真上:「みやこの女」
東京・深川生まれ。小さいころから絵に親しんでいた。ろう石(石筆)で家の前の道路にいたずら書きが絶えなかった。柏に越してきて50年近く。東京・銀座をはじめ、米ニューヨークやカンボジア、スリランカなど海外でも個展を開いてきた。
■写真上:「大洞院の庭 極楽の降りてきた場所」(釈迦八相図)
しかし、どんなに忙しくても、地元に作品を頼まれれば絶対に断らない。「だってもったいないじゃない、楽しんだから。もっと描けばよかったわ」
会場入り口近くに貼り出してある「感謝! 感謝! 感謝!」と題した挨拶状にこうある。
「柏に来て魅力ある街にしようとしている人たちと出会いました。たくさんのすばらしい方々との出会いにより、私なりの絵心を膨らませていただきました。いっぱいの感謝の気持ちを皆々様にささげます」
■写真:「誕生」
ファッションイラストレーターの草分けといわれる長沢節(1917―1999)のセツ・モードセミナーに通って、いろんな画材を使った画法を学んだ。長沢は「まぐれは必然」と説いた。描き続けているから何枚かに1枚、まぐれのようにいいものが出る。行動を続けているからこその結果で、それは偶然ではなく必然というのだ。
■写真上:絵本「TSUNAMI つなみ」の原画
今年83歳。師の影響もあってか、幼い時からの絵心は一向に衰えない。最近、漢字に改めて魅力を感じ、漢字を通して日本を見直したい、という。
■写真上:書籍の表紙も数多く制作した(左)、手がけたポスター、チラシ類もずらり並べられている(右)
「木って二つになると林になって、三つだと森よ。ねー、日本って何ていい国なんでしょう。もう一度、日本を見直した作品を描いてみたい」
小さな体の中に大きな制作意欲を燃やしている。
■写真上:制作意欲を燃やす長縄えい子さん
みんなのミュージアム>長縄えい子・人と街の記憶「自由の筆を生きる」ページ
(文・写真 Tokikazu)