取材「人と街の記憶」

11月

     11月

第15回小さな美術館
「大事なことは見えないんだよ。
しっかりと心で感じなければ」

開 催 2025年11月1日(土)~同6日(木)
時 間 10時~17時
場 所 小さな美術館
住 所 流山市駒木127-27
電 話 090-4845-0919
主 催 さいとう・ひろこ
後 援 流山市教育委員会
入 場 無料




猪又かじ子写真展
旧吉田家住宅歴史公園とその周辺

開 催 2025年10月19日(日)~同12月14日(日)
    9時30分~16時30分
場 所 旧吉田家住宅歴史公園・新倉ギャラリー
    柏市花野井974-1
    ☏04-7135-7007
休園日 毎週月曜(祝日の場合は翌日)
主 催 柏市みどりの基金
入園料 大人300円、高齢者200円。18歳未満無料
(母屋改修中の11月28日まで無料)



年数日の「美術館」
今年もマイホームで開館

――流山市駒木の齊藤公子さん(70)が、2階建て住宅で自身の手作り品や知人の絵画、陶芸などを展示する「小さな美術館」を11月1日に開館した。毎年1回、マイホーム全室をギャラリーにし、数日だけ開館する私設美術館だ。

 

 

写真左:作品を紹介する齊藤公子さん
写真右:美術館開館案内のはがき

 

 


庭先のコスモスが出迎える玄関に入ると、すぐ左の壁に看板代わりの作品が掛かっていた。ベレー帽をかぶり、絵筆を持った折り紙の絵描きが黒板で説明する。「第15回小さな美術館 大事な事は、見えないんだよ。しっかりと心で感じなければ」

 

 

「これは今年のテーマ。世の中の合理化が進んで想像力がなくなっている。例えば植物は、土の中で見えない根がしっかり張っているから生長して花が咲き、実がなることをね」と齊藤さん。文字通り草の根的な美術館の「心」を語る。

 

 

写真左:開館中、入り口ドアは開けっぱなし
写真右:玄関の壁に飾られた「小さな美術館」のタイトル入り作品

 

 

 

作品は4LDKの居室だけでなく、廊下の壁や階段の踊り場、出窓、押し入れにも飾られている。開館中、齊藤さんは2階の折り紙作品ルームに布団を敷いて寝るそうだ。

 

 

今年は齊藤さんの「古希」と重なった。折り紙作品の集大成と自然の小枝、木の実など身近にあるものを使った作品をそろえたという。参加した知人の作品も展示され、初日から大勢の見学者が訪れた。

 

 

写真上:出窓に小枝や木の実などを使った手作り品が並んだ

 

 

 

「小さな美術館」が始まったのは2007(平成19)年11月。きっかけは前年に夫の榮一さん(当時55)が病死したことだった。

 

 

写真上:押し入れの棚いっぱいに展示された亡き夫・榮一さんの陶芸作品

 


 

榮一さんは闘病生活を送りながらリハビリを兼ねて陶芸に取り組んだ。茶碗や皿、カップなど数多くの作品を遺している。創作活動に取り組み、作品づくりをしている知人も少なくない。

 

 

柏市篠籠田の画家藤澤孔格(よしひろ)さん(74)もその一人。齊藤さんの人物画など3点を出品し、スタッフとして来場者の案内役も務めた。「齊藤さんは企画力があって、行動力もあり、人を大切にする方。子どもから高齢者まで各分野の男女から親しまれ、美術館を通じた繋がりの輪が広がっている」

 

 

写真左:19歳の齊藤さん(鉛筆画)
写真右:56歳の齊藤さん(油絵)(いずれも写真を参考にした画家藤澤孔格さん作)

 

 

 

榮一さんの遺作と世話になっている知人の作品を発表する場としてマイホームの美術館化を思い立った。毎年、春秋のいずれかの数日間だけ開館する。節目となった10回目の2016(平成28)年でいったん閉館した。

 

 

平成から令和に変わったのを機に2019年に再開したものの、翌年からのコロナ禍で閉館を余儀なくされた。知人らから「いつ再開するの」との声に押されるように、2022(令和4)年から再び始めた。

 

 

【自然木・木の実作品の1部】

 

 

写真左:ピクニックのカップル?
写真右:馬車に乗って農作業に向かう様子

 

 

 

写真左:ギンナンの実の殻に古布で作った人形
写真右:お茶の実を使った「孫を子守するお爺ちゃん」

 

 

 

写真左:竹細工の「かぐや姫」
写真右:「一寸法師」

 

 

【思い出の光景】

 

 

写真左:折り紙に貼り絵、クレヨン画で描いた小学2年の時の教室
写真右:折り紙、貼り紙に粘土、小枝でかまどを再現した「昭和の台所」

 

 

 

元銀行員。仕事で訪れたお年寄り宅で福祉問題に触れ、退職後、介護福祉士やホームヘルパーなどの資格を取った。生活支援をしてきた高齢者や障害者らの作品も展示してきた。

 

 

齊藤さんは「来て下さった方に気に入った物を探してもらうため、毎年、展示物を変え、心を込めて作っています。皆さんの笑顔が見たいので、私の想像力が働く限りは続けていきたい」という。

 

 

 

 

 

(文・写真 佐々木和彦)

四季の匂いに誘われ
旧吉田家と周辺の風景

――柏市の写真家、猪又かじ子さんの写真展「旧吉田家住宅歴史公園とその周辺」が、同市花野井の旧吉田家住宅歴史公園で開かれている。築200年といわれる旧吉田家住宅と周辺の利根川原、県立柏の葉公園などの四季が紹介されている。

 

 

写真上:旧吉田家住宅歴史公園の作品を説明する猪又かじ子さん

 

 

 

旧吉田家母屋とは別棟の新倉が会場。溝を入れた柱に厚板を挟み込む「板倉構法」で1833(天保4)年に造られた。国の重要文化財に指定されている。

 

 

写真上:写真展のはがきとチラシ

 

 

 

文化財の壁を傷つけないよう、吊るした鉄板に和紙を貼り、裏に磁石をつけた写真パネルをくっつけて展示している。猪又さんが指導する地元の写真グループ「柏写楽会」の定期的な作品展会場の縁もあって、猪又さんの個展が実現した。

 

 

旧吉田家を中心としたものと、ライフワークのように取り組む周辺の利根河原、花野井などの風景を撮影した2部構成。

 

 

炭火が燃える母屋の囲炉裏、園庭で咲く白、ピンクの梅や桜、真っ赤に染まったモミジ、石畳の庭にうっすら積もった雪……。旧吉田家を包む季節の移ろいがA3判の12枚に収められている。

 

【旧吉田家住宅歴史公園の一部作品】

 

 

写真左:「秋深く」

写真右:「桜日和」

 


 

写真左:「囲炉裏端」
写真右:「初夏の庭先」

 

 

 

「静寂の刻(とき)」として2冊の写真集にした利根河原をはじめ、花野井地区や県立柏の葉公園、あけぼの山農業公園など地元愛があふれる作品36点を会期中18点ずつ入れ替えて展示する。

 

【周辺自然の一部作品】

 

 

写真左:「雲間に昇る」(柏市・布施下)
写真右:「晩秋の公園」(柏市・柏の葉公園)

 

 

 

写真左:「空流れて」(茨城県取手市・利根河原)
写真右:「早春の朝」(柏市・利根河原)

 

 

 

写真左:「日の出前」(柏市・花野井)
写真右:「幻日の朝」(柏市・利根川堤)

 

 

 

写真左:「春の息吹」(茨城県守谷市)
写真右:「水辺の輝き」(柏市・柏ビレジ水辺公園)

 

 

 

写真左:「目覚めの刻」(柏市・あけぼの山農業公園)
写真右:「おはよう」(柏市・大堀川)

 

 

 

「風の言葉、大地のかおり」と題する猪又さんの「写の心」が掲示された。「感動のすべては、自然からの贈りもの。自然への憧れは郷愁であり、かけがえのない心のふるさとです」

 

 

会社勤めをしていた40代の頃、趣味として何か残せるものを、と思い立ち、職場仲間の影響もあってカメラを手にした。

 

 

「カメラのことはよくわからなかったけど、好きなものを撮ってきたから続けられたと思う。よく行く利根川原の日出が好き。特に冬の早朝のピーンとしたにおいがいい」

 

 

これまで利根河原と「ふるさと大使」を務める福島県只見町が舞台の「只見憧憬」を加えた「静寂の刻」シリーズ3冊、「花野井の四季」「花野井の里」などの写真集3冊を出した。

 

 

写真上:猪又さんの写真集や写真が掲載された書籍

 

 

 

会場には写真集6冊とともに、猪又さんの作品が掲載されたカメラ雑誌などもずらり展示されている。

 

 

 

 

(文・写真 佐々木和彦)