越前和紙の魅力
伝統技法を生かした版画展も
――レンブラントやピカソも愛用したといわれる福井県越前市の「越前和紙」。その伝統技法と版画などに活かされた作品を紹介する「越前和紙の魅力展~その技と文化~」が10月1日から柏市の柏高島屋で開かれた。
■写真左:人気を集めた川瀬巴水の作品展
■写真右:越前和紙展のポスター
岐阜県の「美濃和紙」、高知県の「土佐和紙」とともに日本の三大和紙に数えられる「越前和紙」の歴史は古い。
1500年前、地元を流れる川に女性が現れ、村人に紙漉(す)きを伝えたのが起源とされている。女性はのちに「川上御前」と名づけられ、川の上流に建立された岡太神社で「紙の神」として祀られている。
会場の本館地下2階催会場はA、B二つのゾーンに分けられた。Aは「越前和紙」の原料から技法、種類、紙漉き実演が中心。Bは「越前和紙」を使った版画などの作品展だ。
Aで楮(コウゾ)、三椏(ミツマタ)、雁皮(ガンピ)、麻などの原料となる木の説明や実物の鉢植えが展示された。木皮の内側の白皮部分を煮た後、たたきほぐし、水に分散したものを原料にする。
■写真上:和紙の原料となる楮(コウゾ)、三椏(ミツマタ)なとの鉢植えと説明コーナー
見ものはやはり紙漉きの実演だ。越前和紙伝統工芸士の村田菜穂さんが、日頃から使っている「漉き舟」と呼ばれる道具を持ち込んだ。四角い桶のような舟に紙料を入れ、漉き簾(す)を篩(ふるい)のように使って紙にしていく様子を披露した。
■写真上:紙漉き実演をする越前和紙伝統工芸士、村田菜穂さん
村田さんは京都出身。「越前和紙」に魅せられ、20歳の時に工房に飛び込んだ、この道28年の職人。「柏の皆さんにもお伝えしたい」として話しながらの実演だった。
■写真上:トークショーの鈴木昇実行委員長、紙漉き職人の村田菜穂さん、越前和紙の里「紙の文化博物館」館長、清水昌夫さん(右から)
「越前和紙」は版画にも最適という厚手の「生漉奉書」(きずきほうしょ)、日本画用の「雲肌麻紙」(くもはだまし)、諸礼状や賞状用などの「檀紙」(だんし)、水彩画、石版・銅版画などに多用される「MO紙」などだ。
紙幣などを発行する国立印刷局のコーナーもあった。印刷局の前身が出来た明治初期、紙幣は外国製だった。耐久性に問題があったため、国産を模索し、江戸時代に藩札の実績があった「越前和紙」の技術に注目。職人を招いて紙漉きからすかし、大量生産の機械化などで深い関係があったという。
すかし技術による「越前和紙」、紙幣の偽造防止技術などの紹介もあったが、いずれも残念ながら写真撮影はNGだった。
「越前和紙」を使った作品のBゾーンでは、日本の原風景を描き続け「最後の浮世絵師」と言われる木版画家、川瀬巴水が生漉奉書に刷った「手賀沼」などの作品がずらりと並んだ。
【越前和紙を使った作品】
■写真上:最高級とされる「越前生漉奉書」(えちぜんきずきぼうしょ)で作られた縁起飾り(作・山本一恵)
■写真上:「越前和紙」の恐竜ペーパークラフト
■写真左:「手賀沼」(川瀬巴水)
■写真右:「手賀沼」のスケッチ(複写)
■写真左:「明けゆく富士」(いずれも川瀬巴水)
■写真中:「田沢湖御座の石」
■写真右:「出雲松江(おぼろ月」
「越前和紙」展の実行委員長で、巴水を研究、作品を収集する柏市の画廊「ギャラリー・ヌーベル」の鈴木昇さんのコレクションだ。
日本の版画界を代表する中林忠良さん、野田哲也さんを始め、現代作家ら7人の木口木版画作品、「あしたのジョー」のちばてつやさん、「機動戦士ガンダム」の安彦良和さんら漫画家5人の原画展があった。
■写真左:「転位’89-地―Ⅵ」(中林忠良)
■写真右:「Diary:Jun.5th‘17」(野田哲也)
■写真左:「鶏の美」(大髙聖依)
■写真中:「黒のコンポジション」(栗田政裕)
■写真右:「太郎と花子(フクロウの二羽の幼鳥)」(長島充)
会期中の10月4日にはトレードマークのネコの絵などを出品した木版画家大野隆司さんの木版画摺り体験があった。小学生らが列をなしてネコの絵と「だいじょうぶだよ」のメッセージ入りの版画を丸いばれんを回して摺った。
■写真左:大野隆司作品コーナー
■写真右:木版画摺りを体験するちびっ子
大野さんは「越前和紙を使うと黒色でもほかの紙とは全く違う色が出る」と話した。
(文・写真 佐々木和彦)