取材「人と街の記憶」

5月

     5月

安蒜静雄 写真展

開 催 2025年4月20日(日)~
    同5月18日(日)
時 間 10時~16時
場 所 大洞院ギャラリー
    柏市花野井1757
    ☎04-7132-5868
主 催 大洞院ギャラリー運営委員会
入 場 無料


県立柏の葉公園
西洋園庭バラ園

開 園 2025年4月26日(土)
     ~同6月中旬
時 間 9時~17時
場 所 県立柏の葉公園 西洋園庭バラ園
    柏市柏の葉4丁目
    ☎04-7134-2015
入 場 無料
取材日 2025年5月12日(月)



勝山貞子 日本画展

開 催 2025年5月13日(火)~同18日(日)
時 間 10時~17時
    (初日は13時開場、最終日は15時閉場)
場 所 興風会館 地下ギャラリー
    野田市野田250
    ☎04-7122-2191
主 催 勝山貞子
協 力 絵画グループ「画楽人」
入 場 無料


めるへん文庫感謝祭 

第Ⅰ期「長縄えい子の世界」
開 催 2025年5月1日(木)~同15日(木)
時 間 9時~21時(最終日15時まで)
場 所 我孫子市生涯学習センター
    「アビスタ」1階中央通路
    我孫子市若松26-4
    ☎04-7182-0515

第Ⅱ期「長縄えい子から黒澤颯子へ」
開 催 2025年5月17日(土)~同6月6日(金)
時 間 9時~21時(最終日15時まで)
場 所 アビスタ2階第3・4学習室前、ミニホール前

第Ⅲ期「めるへん文庫の想いは引き継がれる」
開 催 2025年7月11日(金)~同16日(水)
時 間 9時30分~17時30分(最終日13時まで)
場 所 あびこ市民プラザギャラリー
    あびこショッピングプラザ3階
    我孫子市我孫子4-11-1
    ☏04-7183-2111
主 催 我孫子市教育委員会
    我孫子市民図書館
入 場 無料


大野たかし『めいどのみやげ』展

開 催 2025年5月25日(日)~同31日(土)
時 間 13時~17時
場 所 Huckleberry Books
    柏市柏3-8-3
    ☎04-7100-8949
主 催 大野隆司
入 場 無料


題名のない作品
作者の「心」感じる写真展

――木立に差し込む斜光、紅い夕陽に包まれた森、朝陽のスポットライトで照らされた園路……。4月20日から柏市の大洞院ギャラリーで始まった写真展だ。

 

 

写真上:組み写真も展示されたギャラリー

 

 


柏市の県立柏の葉公園近くにフォトスタジアム「アサヒカラー」を開設していた写真家安蒜静雄(あんびる・しずお)さん(75)の作品。同公園に近い自宅から職場に通うついでなどに撮影した。公園の季節感があふれる。


 

写真家としてフィルム時代からいろんなタイプのカメラを使いこなした安蒜さんだが、驚くことに作品のほとんどは「コンデジ」と呼ばれるコンパクトデジタルカメラの手持ち撮影だという。

 

 

手振れなし、ピシャリ合ったピント、思い切った画角、てっきりデジタル一眼を三脚に固定しての撮影と思い込んでいた。

 


写真左:安蒜静雄さん
写真右:写真展の案内はがき

 

 

 

「いやー、自転車で移動しながら撮影するものだから、持ち運びが便利だ。撮り方によって一眼レフと変わらないよ」と安蒜さん。さすがだな、と思った。

 

 

仕事の合間に柔らかい光が差し込んだり、霧がかかったりの風景を撮るのが好きという。今、2冊目の写真集を準備中だ。

 

 

安蒜さんは市民写真講座の講師も数多く務め、主宰する写真集団「写団萌木」や「楽写会」など柏、野田を本拠とする五つの写真グループを指導する。

 

 

大洞院での写真展は今年1月、柏の葉公園に隣接する生涯学習・芸術文化センター「さわやかちば県民プラザ」で、教え子たちが開いた安蒜さんの写真展「県立柏の葉公園の四季」の100点の中から選んだ20点が中心という。

 

【安蒜静雄作品】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


安蒜さんは日頃「写真は撮影者の気持ちや世界観が反映される。空気感や臨場感を感じてほしい」と話す。

 

 

その意をくんだ大洞院ギャラリー運営委員会は「題名は観た人に先入観を与える恐れがある。素直な気持ちで観て、撮影者の『心』に触れてもらおう」と今回、作品に題名をつけなかった。

 

 

 

 

(文・写真 佐々木和彦)

初夏を彩る種々のバラ
新緑に囲まれた洋風庭園

――バラが咲いた バラが咲いた 真っ赤なバラが♫ ギターを抱えたマイク眞木が歌って大ヒットした「バラが咲いた」(1966年)。花の季節になって柏市の県立柏の葉公園にあるバラ園に行くと、毎回、この歌を心の中で歌っている。

 

 

写真上:カラフルなバラが咲き誇る園内は平日も見学者が絶えない

 

 

 

ここのバラ園は春秋2回、開花期だけ開園される。円形の整形花壇を模したといわれる西洋庭園で、ピンクのつるバラをかぶるようなドームを中心にカラフルな86種、1千株が放射状に広がる。

 

 

写真上:柏の葉公園の新緑に囲まれているバラ園

 

 

 

見ごろなのだろう、訪れた5月12日の開花状況は全体で7分、つるバラドームが3分咲きとのことだった。

 

 

写真上:ドームのつるバラが園内を散策する家族連れを見守るようだった

 

 

 

取り巻く見事な周囲の新緑とバラ園の「二重奏」のようでもある。花園の回りは甘い香りに包まれ、平日も見学者が絶えない。

 

 

写真左:フランボラーズ バニーユ
写真右:サン フレーア

 

 

写真左:ホワイトコスター
写真右:プリンセス ドゥ モナコ

 

 

写真左:アブラカタブラ
写真中央:しのぶれど
写真右:ニューアベマリア

 

 

 

冒頭のようなバラがテーマの歌が多い。筆者の年代では「恋は紅いバラ」(加山雄三、1966年)、「君は薔薇より美しい」(布施明、1979年)、「百万本のバラ」(加藤登紀子、1988年)、「情熱の薔薇」(ザ・ブルーハーツ、1990年)など。

 

 

バラの視覚的な印象から愛情や美しさ、情熱を連想し、歌の詩的な表現とか、旋律の魅力的な要素になるのだろう。

 

 

あなたにとって、バラの歌はなんですか?

 

 

 

 

 

(文・写真 佐々木和彦)

地元の里山、水辺描く
勝山貞子さんの日本画展

――野田市在住の日本美術院院友、勝山貞子さん(75)の日本画展が5月13日から同市内の興風会館で開かれた。地元の里山や水辺などが日本画特有の淡く、深い色合いで描かれている。

 

 

写真上:初日から大勢が駆け付けた日本画展会場

 

 

 

会場は昭和初期に建てられたロマネスク様式の中世ヨーロッパ風ビルにある地下ギャラリー。静謐(せいひつ)な空間に小品から40号、150号の大作まで計30点が出品された。

 

 

原色に近い色合いの心象的な初期の作品から、野山の風景、静かな水面に映る山野草などの近作が抑え気味な照明の中で展示されている。

 

 

東京・下町生まれの勝山さんは結婚後、緑あふれる自然の野田が気に入って居を構えた。西陣織など日本の伝統的なものが好きで、男女2人の子育てが一段落した30代後半から日本画を始めた。

 

 

写真左:日本美術院展初入選の大作「薫風」を鑑賞する入場者

写真右:作品「汀(みぎわ)」と勝山貞子さん

 

 

 

初めはカルチャーセンターに通ったが、さらに深めようと、習志野市や茨城、埼玉県内の日本画家の門をたたいて教えを乞うた。

 

 

自宅の一室をアトリエにして描き始め、1995(平成7)年の千葉県展で初入選。翌年には日本画新興展(新興美術院の公募展)でも初入選し、以来、2007(平成19)年まで千葉県展や日本画新興展で数々の入選を果たした。

 

 

院展(日本美術院の公募展)にも挑戦を始めたが、数年間、落選を繰り返した。「なぜだろう。色遣いやモチーフが幼稚なのでは」と考えた勝山さんは、思い切って作風を変えた。

 

 

野山を歩いたり、自然公園を散策したりで気に入った野花の写真を撮って帰り、風景をイメージする一方、画材も工夫した。

 

 

鉱物を粉末にした岩絵具(いわえのぐ)をくすんだり、濁ったりの色が出るようフライパンで焦がし、麻紙の湿気やパレット代わりの陶器絵皿の温度にも気を配った。

 

 

 

写真左:「うずら」 写真中央:「晩秋」 写真右: 「水鏡」

 

 

 

2016(平成28)年の院展で、草原の白い小さな花・ヒメジョンの群落を150号で描いた作品「薫風」が初入選した。以来、4年連続の入選を果たし、2019(令和元)年には高いレベルと実績が認められる院友に推された。

 

 

写真左:「女郎花の咲くころ」
写真右:「畦畔」

 

 

 

都内をはじめ地元のイタリアレストランなどで個展を開き、二人展やグループ展などにも参加してきたが、地域の作家に人気の興風会館地下ギャラリーは初めてという。

 

 

昨年6月、中央の絵画団体「光陽会」会長で野田在住の画家加藤瑞恵さんが同ギャラリーで開いた個展を観て感動。加藤さんに「あなたもやりなさい。まだいい、まだいい、と思っているうちに年取っちゃうわよ」。そのまま事務所に案内され、会場を予約したという。

 

 

勝山さんが特別講師を務める地元の絵画グループ「画楽人」の間中泰彦会長、片桐之栄副会長らが個展の初日から応援に駆け付けた。アーチがデザインされた正面玄関に手づくり看板をセットし、受付や会場案内などをした。

 

 

 

写真上:「画楽人」メンバーの手づくり看板

 

 

 

写真左:「春野いぶき」
写真右:「遠い記憶」

 

 

 

写真左:「聖夜」
写真右:「献花」

 

 

 

写真左:「雨あがり」
写真右:「月明かりの一夜」

 

 

 

写真左:「花菖蒲」
写真右:「菊」

 

 

 

勝山さんは「展覧会に行ったとき『わー、きれい』と思う作品がある。私もそんな絵を描きたい。そして自分の絵の前で足を止めて観てくれるようなものにしたい」と話した。

 

 

 

 

 

(文・写真 佐々木和彦)

タッチは変わっても
紡ぐ「めるへん」の想い

――我孫子市が全国の児童・生徒から募集した童話、小説の入選作品集「めるへん文庫」のイベントが同市生涯学習施設「アビスタ」で開かれている。柏の画家、故長縄えい子さん、引き継いだイラストレーター黒澤颯子(くろさわ・さつこ)さんの表紙絵や挿絵の原画が展示されている。

 

 

写真上:長縄えい子さんが手がけた「めるへん文庫」表紙絵の原画展会場

 

 

 

長縄さんは、1975(昭和50)年から柏の画材店で子どもたちに絵を教えていた。巣立った子どもは1千人以上ともいわれ、美術系大学に進んで画家になったり、デザイナーになったり。


保育団体の月刊誌でも挿絵を描くなどしており、2002(平成14)年の「めるへん文庫」の立ち上がりから審査員を務め、表紙絵や入選作品の挿絵を描いていた。

 

 

 

写真左:「長縄えい子から黒澤颯子へ」会場の黒澤さん
写真右:在りし日の長縄えい子さん

 

 

5月1日から始まった「めるへん文庫 感謝祭」の第Ⅰ~Ⅱ期で、長縄さんや後継者の黒澤さんの表紙絵、挿絵の原画などが紹介されている。二人は住まいも近く、家族ぐるみの付き合いだった。お茶を飲みながらおしゃべりをし、一緒に絵を描くこともたびたびあった、という。

 

 

長縄さんは「『めるへん文庫』は第20集で引退するから。あとはお願いね」と語るようになった。

 

 

「まだまだ続けてください」となだめるようにしていた黒澤さんは、2021(令和3)年度から審査員となり第19集「めるへん文庫」から携わった。

 

 

長縄さんは第20集の発行を翌月に控えた2023(令和5)年1月、交通事故で亡くなった。85歳だった。

 

我孫子市めるへん文庫 童話賞を夢見ていた我孫子在住の児童文学作家、故古登正子(こと・しょうこ)さんの寄付を受けて2002(平成14)年創設した。同年から全国の児童・生徒を対象に童話や小説を募集。小学生の部、中学生の部、高校生の部で一、二、三席と最優秀の古登正子賞が選ばれる。多い年で300編弱、少なくても100編前後の応募があり、入選作品は毎年、一冊の作品集に収められる。

 

 

写真左:「めるへん文庫」第20集(左)と第21集

写真右:「めるへん文庫」感謝祭のポスター

 

 

生前に描き上げていた魔法使いが夜空をほうきで飛びながら子どもたちに星を振りまく表紙絵、ウサギやネコの手を引く魔女の口絵が「遺作」になった。入選作品の挿絵は黒澤さんが引き継いで手掛けた。第20集の絵は二人の合作となった。

 

 

長縄さんは最後となった「審査委員のことば」で「『めるへん文庫』の魔法使いは、ほうきに乗って、とうとう20年にもなりました。でもまだまだ、ほうきから降りたくありません」と述べている。

 

 

そして「『めるへん』は子どもたちの見る夢のようなもの。子どもたちは自分の町や村から話を作り、きっと、町や村をすてきな所にしていくのです。応援に魔法使いがついています。ほうきを手ばなさないで」とあった。

 

 

引退をほのめかしていた第20集だったが、節目を迎え「魔法使い」の長縄さんは「ほうきを手ばなさない」と新たな決意をしたようにみえる。

 

 

写真左:長縄さんの第1集

写真右:第2集の表紙原画

 

 

写真左:長縄さんの第3集

写真右:第18集の表紙原画

 

 

 

2024(令和6)年2月発行の第21集から表紙絵と挿絵を担当した黒澤さんは「違和感がないように」として、動物と戯れる魔法使い親子の表紙絵にした。

 

 

写真左:黒澤さんの第21集

写真右:第22集の表紙原画

 

 

 

挿絵は筆描きの長縄さん、ペンの黒澤さんで線の太さもあってタッチの違いが感じられたが、柔和で温かみのある表情が似ている。

 

 

写真上:長縄さんの挿絵

 

 

写真上:黒澤さんの挿絵

 

 

黒澤さんは「一緒に絵を描いていたので似ているのかも知れませんね。これからも子どもの作品を先入観なしに素直に描いていきたい」という。

 

 

第Ⅰ期の「長縄えい子の世界」では、長縄さんがタウン誌「月刊とも」(野田)で連載したエッセーを製本した「老婆は一日にして成らず」の朗読会もあった。

 

 

写真左:朗読会場にも置かれた長縄さんのイラスト

写真右:長縄さんのエッセイ朗読会

 

 

 

7月11日からの第Ⅲ期は、あびこ市民プラザで「めるへん文庫の想いは引き継がれる」とのタイトル。長縄さんの作品を使ったワークショップなどが企画されている。

 

 

 

 

 

(文・写真 佐々木和彦)

可愛いだけじゃない
二面性も大野作品の魅力

――可愛いネコの絵で知られる木版画家、大野たかしさんの「めいどのみやげ」と題した作品展が5月25日から柏市の児童書専門店「Huckleberry Books」(ハックルベリー ブックス)で開かれた。

 

 

写真上:会場いっぱいに展示された作品

 

 

 

絵本や児童文学書が並ぶ店舗二階のギャラリーが会場。フロア中央に大きな机があり、作品を置いたり、入場者と語らったり。四方の壁がメーンの作品展示スペースになっている。

 

 

写真左:大野たかしさん
写真右:作品展のチラシ

 

 

 

柏に20年以上住み、市内でたびたび個展を開いた。今は都内の実家暮らしだが、十数年前に友人のイラスト、本の挿絵を集めた個展を観に来て、この会場が気に入った。個展に使うようになって今回で2回目。

 

 

「めいどのみやげ」とは穏当ではないが「この世で楽しい思い出をたくさんつくろう」との気持ちからだという。

 

 

写真左:書籍の作品を手に取る入場者
写真右:「わらうと」「わらうよ」などの言葉遊びもお得意だ

 

 

 

今回は初期の影絵的な作品から大野作品の代名詞ともいえるネコに加え、二十年来の知り合いで書家の石井礼子さんが「感動したことが言葉になって浮かんでくる」書とコラボのカレンダーなどがぎっしり並んだ。

 

 

写真上:書家とコラボしたカレンダーと原画

 


 

2019年から2021年まで読売新聞夕刊「言葉のアルバム」で連載された挿絵の現物も紹介された。気の利いた駄洒落とネコの明るい作風が多いが、一転、「えっ」と思うような暗いというか、怖い感じというかの作品もあった。

 

 

 

写真上・右下:2021(令和3)年7月2日の読売新聞夕刊「言葉のアルバム」から

 

 

「可愛いネコだけでは、なんかうさん臭いでしょう。人間なんだから表とは別の暗い面もある」

 

 

会場の貼り紙に「今回は生前葬でもあります」との説明があった。会場の大野作品は「遺作」となるので、展示作品はどれでも税込み1千円。過去に同じものを高額で買った方には作品で補填する――との内容だ。

 

 

 

 

 

会期中、展示が終わる午後5時から会場にいた入場者、知人らが誘い合って近所の居酒屋で「お斎」(おとき)ならぬ懇親会が毎日のように開かれた。 参加者と杯をかわす大野さんは「駄洒落を含めて人に役立つものを考えてきた。プラス志向になれる、観る人に合った作品があったならうれしいのだが……」が「遺言」だった。

 

 

 

 

(文・写真 佐々木和彦)