油絵、水彩、水墨……
三十数年、利根運河を描く
――利根川から江戸川にそそぐ利根運河を油絵や水彩、水墨、写真で描いた作品展が1月4日から流山市利根運河交流館で開かれている。地元作家の上杉健治さん(77)が流山に転居後の三十数年、様々な手法で利根運河を捉えた30点を集めた。
■写真上:油絵、水墨画、写真などの作品を説明する上杉さん
明治時代に完成した利根運河は柏、流山、野田を通る8.5㌔。散歩で見つけたという上杉さんは「利根川から江戸川を抜けて海につながるなんて魅力がある。それに川の蛇行や適度な高低の構図もいい。自然も豊富だ」と惚れ込んだ。
■写真上:冬の利根運河(左)、秋の利根運河
始めの頃は草花の写真を撮るサークルに入って、運河の四季の花を撮りに来ていた。そのうち自然と絵筆も振るうようになった。
展示作品のほとんどに題名がない。それもそのはずで、全て利根運河がモチーフだからだ。ただ、「第54回国際公募亜細亜現代美術展2018」(亜細亜美術協会主催)で入選した油絵には「家路」と名づけられている。真っ赤な夕陽を受けた運河橋を自転車で渡っている様子が描かれている作品だ。
■写真上:第54回国際公募亜細亜現代美術展2018入選作品「家路」
もう一つは「アートを身近に感じる芸術祭」をスローガンに昨年5月、大阪・天王寺の「あべのハルカス」で開かれた「第28回オアシス2023」(オアシス実行委員会主催、外務省、文化庁など後援)に出品した油絵を「利根運河」としている。
■写真上:「第28回オアシス2023」出品の「利根運河」
オアシス展には国内を始め、スペイン、フランスなどから210点を超える作品が集まった。上杉さんの「利根運河」に主催者から「作家が独自の表現を心得ている、と作品は伝えている。作風とテーマがマッチしており、観る者は郷愁をかきたてられることだろう」とのコメントが寄せられた。全作品はオンラインミュージアム(https://oasis-online.jp)で公開中だ。
2022(令和4)年3月に発行された15世紀からの名画と現代美術家の作品を収めた「今昔日本絵画図鑑」(麗人社)に長い茎が付いた油絵「家庭菜園の玉葱」が掲載され、ともに上杉さんの励みになっている。
■写真上:「今昔日本絵画図鑑」に収められた「家庭菜園の玉葱」
会場にはお気に入りの作品をポストカードにしたものも数多く展示され、来訪者に記念として1枚ずつ贈っている。
前橋市出身の上杉さんは医療系専門学校で学び、検査技師となった。血液検査など今は機器による自動分析だが、試験管を振ったり、顕微鏡をのぞいたりして検査する時代からの技師だ。
神奈川県内の病院に勤めていた30歳過ぎの頃、週末を楽しむ趣味を持ちたいと思っていた。盆地の高台にある病院から眺める市街地や山並みがとても綺麗だった。そういえば、中学生の時、図工の時間に水彩で風景画を描いて先生に褒められたこともある。
■写真上:現地で写生して仕上げた水彩画
そんな想い出もあってか、絵を始めようと思い、画材店から油絵セットを購入した。誰に習うでもなく、自己流で相模湾の海辺や地元の景色をモチーフにした。
丹沢山地の山を描いた「大山」、街並みを背景に庭にあった桜2本の「官舎の桜」の2作品を周囲の薦めもあって出品した秦野美術展で2点とも入選した。
芽吹きが始まった山を緑、黄、赤を混ぜ、筆を立てて使ったのがよかった? ピンクのほんわりとした桜と、きりっとした官舎の柱のコントラストがよかった? いろいろ自己分析した結果、絵画教室に通って絵を習うことにした。
仲間のグループ展などに参加しているうち、亜細亜美術協会関係者らと知り合い、活動の輪が広がった。定年後は創作活動も本格化。今年の正月休み、近所に住む高校1年生の孫娘が風景画を描きたいといって、絵を習いに来た。今後の楽しみの一つだ。
■写真上:懐かしさも醸し出す水墨画の利根運河
上杉さんは「空間芸術というか、絵を飾っている部屋に安心感があって、和やかな雰囲気になる。絵に題名はないけど気持ちがいい。AIの時代といえども人間の感性と、心のゆとりが感じられるものを描いていきたい」という。
最近、作品の下絵になる張り絵のエスキース作りを始めた。これまでは具象的な作風だが、エスキースはいろんな形、色の組み合わせで抽象的というか、シュールというか。新たな作品の模索が始まったようだ。
■写真上:作品の素案となるエスキースの張り絵
■写真上:運河の彼方に沈まんとする夕陽が水面に反射する
(文・写真 佐々木和彦)