タッチカービングに力
野鳥彫刻家、内山春雄さん
――日本バードカービング協会会長の野鳥彫刻家、内山春雄さん(73)=我孫子市在住=が小学生や一般市民に伝授した作品のバードカービング展「内山春雄&鳥刻の会と小学生の鳥たち」が9月1日から我孫子市の「あびこ市民プラザギャラリー」で開かれた。
■写真上:小学生(手前)から「鳥刻の会」会員の作品が並ぶ会場
野鳥彫刻のバードカービングを始めて43年の内山さんは今回、目の不自由な人に野鳥を知って欲しいと、作品を触って感じ取ってもらうタッチカービング作りに力を入れ、展示した。
■写真上:作品を熱心に見入る入場者(左)、会場入り口に設置されたポスター
目の不自由な人にどうやって野鳥を知ってもらうか、考え続けていた。バードカービングは木材を使うが、触って鳥の柔らかな質感も得てほしいと、作りためていた作品の型を使い、樹脂でかたどった。
体長の目安となる「ものさし鳥」と言われるメジロ(約10㌢)、スズメ(約15㌢)、ハクセキレ(約20㌢)を並べた。小枝などに止まっている姿に加え、餌を加えて飛んでいる様子など、この5か月間で作った40種類のうち、22種類を展示した。
■写真上:「ものさし鳥」と呼ばれるスズメ(左)とハクセキレイのタッチカービング
内田さんは「目の見えない人にとって野鳥は未知の存在だと思う。触ってもらって全体の形を知ってもらえれば」として、2011(平成23)年から千葉県立特別支援学校で、視覚障害者向けのタッチカービングを使った出前授業で野鳥の生態を教えた。
20(令和2)年11月には沖縄県立博物館(那覇市)で、目の不自由な生徒に沖縄固有種で絶滅危惧種のヤンバルクイナを触察してもらう野鳥の授業も開いている。
会場に置いたタッチカービング一羽ずつに名前と鳴き声のデータコードを付けた。形とともに名前や鳴き声も覚えてもらうためだ。データコードを太い油性ペン大の「音声再生ペン」に読み込ませると、名前のアナウンスと鳴き声がペンのミニスピーカーから流れる。市販品がない野鳥は内山さん自身がデータコードを作り、名前や鳴き声を吹き込んだ。
■写真上:タッチ―カービングの「音声再生ペン」をチェックする内山春雄さん
バードカービングは日本鳥類保護連盟が愛鳥教育に役立てる狙いでもあった。内山さんは1980(昭和55)年にサンプル作りを頼まれて始めたのがきっかけ。
■写真上:跳んだり(左)、ハスの花で翼を休めたりのカワセミのタッチカービング
98(平成10)年から我孫子市立第一小学校が愛鳥モデル校となり、内山さんの授業がスタートした。業者に特注した専用の小型ナイフを使って小鳥を彫り、彩色するまで指導した。
会場の中央テーブルには、同校と同高野山小の6年生が2日間、延べ8時間にわたる授業で作ったモズ、アカハラ、メジロ、オオルリ、ツバメなど計200点が展示された。中央の校名を囲むように並んでいる。
■写真上:小学生による作品群
内山さん主宰のバードカービング教室に通う一般市民の「鳥刻の会」(約30人)も27作品を出品した。会員は毎秋、東京・上野の東京都美術館で開催される全日本カービングコンクールへの参加を励みに制作に取り組む。
同会員の長棹康晴さん(77)=千葉市=は可愛らしい2匹のフクロウ、小枝で翼を休める2匹のアオカケスの2点を出品した。どちらも1年かけて作り上げたものだという。
■写真上:左から フクロウ(長棹康晴)、サシバ(池田得利)、ヤマセミ(根橋眞理子)
「写真やネットで見つけた画像を参考に作っている。フクロウは手彫りした丸太の中に収めた。アオカケスは広げた翼の羽根の質感を出すのに苦心した」という。長棹さんは2016(平成28)年の第19回コンクールから毎回、中、上級クラスの協会賞を受賞している。
「鳥刻の会」の作品は10月25日(水)から同29日(日)、東京都美術館での第24回コンクールに出品される。
内山さんのタッチカービング40点は11月16日(木)から1月8日(月祝)、東京都美術館で同館主催の展覧会「いのちをうつす」で紹介される。「数十年以上にわたって一つの生き物を追いかけ続けてきたつくり手」の6人の一人に選ばれた。
期間中の12月8日(金)、19日(火)午後2時からワークショップ「タッチカービングで触察体験」、同10日(日)午後2時から「触って知る・バードカービング」のトークが予定されている。
■写真上:アオアシシギ(向井剛)(左)、ホオジロ類(里山望気)
■写真上:セイタカシギ(土山ひとみ)(左)、オオトラツグミ(井上岳彦)
■写真上:左から カケス(中茎義昭)、ミサゴ(渡邊充夫)、コマドリ・オオルリ(神保武司)
(文・写真 佐々木和彦)