柳宗悦が紡いだ縁
故砂川氏寄贈の芹沢作品展
――型絵染の人間国宝、芹沢銈介(1895―1984)の作品展が柏市郷土資料展示室で開かれている。同市が譲り受けた「砂川七郎コレクション」の第29回展「花鳥風月―心を染めるものがたり―」。
■写真上:芹沢銈介作品展のポスター(左)、型絵染技法の紹介コーナー
芹沢が影響を受けた「民芸運動の父」とされる柳宗悦(1889―1961)との出会い、芹沢が装丁した柳の雑誌「工藝」の作品に感銘して収集を始めた故砂川氏。芹沢作品展は柳が紡いだ縁といえそうだ。
「砂川コレクション」は600を超えるといわれている。主催の柏市教育委員会はタイトルの「花鳥風月」にちなんだ美しい自然がテーマの図案や文字などの作品41点を選んだ。
■写真上:ガラス越しに「晴雨二曲屏風」(左)などが並んだ
のれん、着物、帯地、屏風、カレンダー、うちわ、字模様……。名もなき職人手作りの生活に根づいた「民衆工芸品」(民芸)にこそ「美」があるという柳の思想を偲ばせる。
■写真上:「草の字のれん」(左)、「風の字壁掛」
「華の字」の壁掛はいろんなところに貸し出す人気作品だけにダメージもある。今回はしわを伸ばす修復後の初展示となった。「梅に鴬文」は梅の枝先にウグイスが止まっているのれん。一見、シンプルだが、藍の濃淡で染め分けられていて、芹沢の繊細さがわかる作品だ。
■写真上:「華の字」(左)、「梅に鴬文のれん」
着物の「小花入爪文緑地縮緬着物」はちりめんに黄緑色の小紋。よく見ると一つずつ白く染め抜かれた爪模様の中に、カラフルな植物、鳥、魚、三重の塔などがデザインされている。気づいた入場者にとって新しい芹沢作品の発見につながっている。
■写真上:「小花入爪文緑地縮緬着物」(左)、「雪持笹に松梅文鼠地縮緬着物」
作品保護のため、会場は暗めに抑えられており、灯りがスポットライトのように作品を照らす。芹沢が丹精を込めた作品が静かに見学者を待っているかのようだ。
■写真上:照明を抑えた会場で静かに鑑賞する入場者
作品展を担当する柏市教育委員会文化課の髙橋彩友季さんは、かつて作品の扱い方などを習いに静岡市立芹沢銈介美術館で研修した。「作品は鮮やかな色使いですが、決して派手ではない。落ち着いていて、独特の温かみがあり、手に取りたくなるような作風が受けているようです」
砂川氏は1913(大正2)年、柏市(旧田中村)出身。学生時代、柳が1931(昭和6)年創刊の「工藝」で芹沢作品に出合ってとりこになり、コレクションを生涯続けた。
今回の作品展に芹沢夫妻とともに撮った写真が紹介されている。そんな交流もあって収集が進み、1981(昭和56)年5月、柏市役所から国道16号を挟んだ向かいに「砂川美術工芸館」を開館し、所蔵品を一般公開した。
芹沢の生まれ故郷、静岡市でもこの年、市立美術館が開館。砂川館は小さいながらも芹沢ファンらの関心を集めた。14年後の1995(平成7)年、砂川氏が体調を崩し、惜しまれながらも閉館。「作品の散逸を防ぎ、柏の文化振興のために」と柏市へ寄贈し、その年に亡くなった。
「砂川コレクション」を引き継いだ柏市は工芸館を市立施設化し、翌1996(平成8)年2月に再開。閉館する2007(平成19)年6月までに32回の企画展を開催し、延べ4万5447人が入場した。
合併で柏市の沼南庁舎となった旧沼南町役場がリニューアルされ、2008(平成20)年8月に郷土資料展示室が誕生。「砂川コレクション」の企画展がここで復活する。
芹沢は柳とともに1939(昭和14)年、民芸調査で沖縄を訪れ、染物「紅型」(びんがた)技法を学んだ。独特の大胆な色彩、美しさ、華やかさがあり、「型絵染」の基礎となったとされる。復活初回が「沖縄に魅せられて」だった。
■写真上:「花蝶文地白縮緬帯地」(作品個々の写真は柏市教育委員会提供)
以来、「祈る人」(第8回展)、「芹沢銈介の風」(第17回)、「クール&ラブリー」(第25回)、「セリザワブルー」(第28回展)と2020(令和2)年をのぞき、毎年1~3回、独自のタイトルで開催を続けている。
さて、次回はどんな「セリザワワールド」を見せてくれるのか。楽しみに待つことにしよう。
(文・写真 佐々木和彦)