彫刻触って知る野鳥
タッチカービングの内山春雄さん
――バードカービング(野鳥彫刻)の内山春雄さん(73)=我孫子市在住=が12月8日、東京・上野の東京都美術館で、目の不自由な人が触ることで鳥をイメージできるタッチカービング体験の講師を務めた。全盲の女性らが触察しながら内山さんの話に聴き入った。
■写真上:男女11人が参加したタッチカービング体験会場
動植物などをモチーフにする作家5人と共に同館で開催中の上野アーティストプロジェクト2023「いのちをうつす」展の関連ワークショップ。同展に内山さんは白塗りのタッチカービング39点と色塗りされたイワヒバリ、ライチョウ、ヤンバルクイナなどのバードカービング10点を出品している。
■写真:「いのちをうつす」展のポスター
ワークショップには「作品に触ってみたい」という女子大学生や視覚障害者のガイドをしている男性、5歳の女児を連れた父親もいて計9組11人が参加した。
■写真上:父親とタッチカービングで遊ぶ女児(左)、タッチカービングを体験する女子大学生コンビ
参加者のテーブルにはサイズの目安となる「ものさし鳥」のメジロ(10㌢)からハシボソガラス(50㌢)の5種、東太平洋エクアドル領ガラパゴスで、独自の進化を遂げたガラパゴスフィンチなど5種が用意された。
■写真上:「ものさし鳥」のキジバト(左)とハクセキレイ
タッチカービングを中に収めた内山さん手製の木製箱もあった。側面にあいた円形の穴から手を入れて触る仕組みで、タッチボックスと名づけられている。
■写真上:タッチボックスの中のカワセミ(左)、タッチボックスに挑戦する参加者
参加者は「ものさし鳥」から触り始めた。体長もさることながら口ばしの大きさ、形の違いを感じ取った。内山さんは「口ばしの細さ、太さ、形は花の蜜を吸う鳥、昆虫を食べる鳥で違いが出てくる」と説明した。
ウグイスはどんな大きさ? との質問をよく受ける。スズメ(15㌢)とハクセキレイ(20㌢)のあいだぐらいと答える。ワシやタカは? ハシボソガラスぐらい、というとイメージしてもらえるという。「だから『ものさし鳥』は大事なんだ」と内山さん。
カワセミが入ったタッチボックスに手を入れた全盲の女性は「かわいい。丸っこい体。あれ、でも胴体が短い」と第一声。広げた翼の羽根を重ね合わせるよう彫り上げられた作品を触って「すごーい、すごーい」を連発した。
内山さんは天然木材をくり抜いたり、はめ込んだりして絵のように描く木工品「木象嵌」(もくぞうがん)の職人でもある。参加者には冒頭でバードカービングを始めたいきさつから語り始めた。
■写真:バードカービングを始めたいきさつから語り始めた内山さん
1980(昭和55)年代にバードカービングを愛鳥教育に役立てようと、日本鳥類保護連盟からサンプル作りを依頼されたのがきっかけ。鳥を知るため、東京・渋谷にあった山階鳥類研究所に通った。
同研究所は1984(昭和59)年、我孫子に移転したのに伴って内山さんも都内から我孫子に移住し、作品を作り続けた。
従来のはく製に代わるものとして博物館などからの需要がある。飾り物や美術品ではなく、はく製のように実物大の正確性に気を配っている。
作り始めた当初からバードカービングの可能性を探った。その中で目の不自由な人にどうしたら野鳥をわかってもらえるかを考え続け、タッチカービングに行きついた。
■写真上:参加者の手を取り、作品に触れて羽根の構造を説明する内山さん
タッチカービングの台座には工夫をしてある。台座にあけた小さな穴にデータコードを埋め、市販の「音声再生ペン」に読み込ませて内臓スピーカーから鳥の名前や鳴き声を流す仕組みだ。
11月4、5両日、我孫子市の手賀沼湖畔であった「ジャパンバードフェスティバル2023」でも披露し、好評だった。タッチカービング触察体験は12月19日(火)午後2時からも開かれる。事前予約制。
内山さんは「今回は晴眼者が多かったので、目の見えない人の世界を知ってもらいたかった。世の中のものは、晴眼者がつくった晴眼者の世界。物をつくる時に目の見えない人の立場から考えて製作すると、違った物づくりが出来る」と話している。
■写真上:東京都美術館ギャラリーで展示されている内山さんのバードカービング(左)、白塗りのタッチカービングを見学する入場者
(文・写真 佐々木和彦)