市民が撮った柏の自然
「生きもの」写真の巡回展
――「柏にこんな生きものが」という写真展が、柏市で開催中だ。11月22日に「ひまわりプラザ」(柏市沼南近隣センター) でスタートし、12月14日まで同市内の公共施設で開く巡回展だ。
■写真:巡回展のポスター
企画したのは写真愛好グループではない。柏市の環境行政と連携する市民のNPO法人「かしわ環境ステーション」で、市民が身近な生物を撮った作品を募集したものだ。
今回の巡回写真展にあたって7月から8月にかけて作品を公募し、500点を超える動植物、昆虫、魚類などの写真がEメールやUSBメモリで寄せられた。整理、選別した写真をジャンル別に大判のパネルにまとめて展示している。
柏市教育福祉会館「ラコルタ柏」会場を訪ねた。一般開放されている3階のオープンスベース西側の三方にパーテーションをコの字型に設置。1枚に写真6~10点が印刷された大判パネル20枚が展示された。
■写真上:「ラコルタ柏」では一般用のオープンスペースが会場になった
季節の草花、動物、野鳥、昆虫、そしてすっかり定住したかのような外来生物の数々……。実に多種多様な生き物の姿が描かれている。手持ちのスマホで撮ったと思われる写真に交じって、接写用のマクロレンズ、逆に遠くを狙う望遠レンズを使った写真も見受けられた。
■写真:初夏の植物(左)から野鳥(中央)、チョウ(右)などを集めたパネル
一般公募だが、市民が撮ったものに加え、写真愛好家が専門機材を使って場所を探し、撮影したものもあり、幅広い作品群だ。そこに共通するのは「柏の自然」を各人の目線で狙ったことだろう。
巡回写真展は例年10月~12月に実施する「柏の自然と生きものフェスタ」の一環。かつては環境調査などでスタッフが撮った写真を利用していたが、市民に参加を求めようと公募写真に切り替えた。毎回、数百点の応募があるという。
■写真上:個別パネルを熱心に見学する入場者
今年は10月29日にアミュゼ柏で開いた講演会「柏の外来生物」、11月3日に市内「手賀の丘公園」で実施した自然観察会に続く「生きものフェスタ」の企画だ。
■写真:水辺に棲み付いた外来魚種
写真展担当の輿石邦夫・生物多様性部会副部会長は「柏にはいろんな生きものがいる。そんな豊かな自然に気づいてほしい。そして関心を持って柏の自然に親しんでもらえればいい」と話した。
「かしわ環境ステーション」は市民や環境問題の専門家らで2005(平成17)年10月に発足し、2015(平成27)年8月にNPO化(事務局・南部クリーンセンター)された。生物多様性部会、温暖化対策部会があり、約50人のメンバーが集う。
北部の「大青田の森」「こんぶくろ池」がある利根運河、南部の「下田の杜」「増尾城跡」などの大津川西、東部の「手賀の丘公園」などの手賀沼東など7エリアにある37か所を自然度が高いホットポイントとして、担当エリアを決めて調査、保全活動をしている。その結果に応じて草刈りしたり、草花を移植したりの活動をする。
■写真上:ホンドタヌキ
「かしわ環境ステーション」が2016~2018年、柏市と協働で実施したホットポイント中心の自然環境調査では、柏の代表的な常緑広葉樹はシラカシ、アカガシ、落葉樹はイヌデシ、コナラ、クヌギなど。
動物は哺乳類10種、鳥類74種、爬虫類11種、両生類8種、魚類19種、昆虫類486種が確認された。千葉県のレッドリストで絶滅危惧種に指定されている種も少なくないという。
アライグマ、ハクビシン、カミツキガメなどの外来種も増え、手賀沼周辺ではコブハクチョウによる農作物の食害も目立ってきた。
■写真上:最近あまり目にしなくなったでんでんむし「ミスジマイマイ」(左)、羽化するアブラゼミ(右)
柏市大井にある船戸古墳地では、地元ボランティアの手入れにより、十数株だったキンランの開花個体が400を超えるまでに増えた。人手により回復しつつある自然がある一方、南部地区の斜面林など2箇所が消失、森1箇所が土地転用で調査困難になった。
残るホットポイントのうちの19箇所も植生や動植物の生息が後退しているという。要因として宅地開発、埋め立て、樹木の伐採などが挙げられている。
この自然環境調査を基に柏市が2019年3月、市民向けガイドブック「さがせ! 柏のしぜん」(A4判、64㌻)を発行した。ホットポイントがある7エリアの豊かな自然、動植物のカラー写真、担当ウォッチャーのコメントで紹介している。
■写真上:木の枝に陣取ったフクロウの幼鳥(左)、アカネスミレ(右)
巻末で2008年~2018年の10年で消滅した6箇所の写真を掲載し、こう綴っている。
「変化をし続ける『柏のしぜん』。今後どのように『柏のしぜん』とかかわったらよいでしょうか? もっと自然を探したい、自分でみつけた自然を守りたい。そういう人が増えてほしい」
ガイドブックにはそんな願いが込められている。
(文・写真 Tokikazu)