進化、熟成する個性
柏市ゆかりの作家作品展
――在住者だったり、出身者だったりする柏市ゆかりの作家集団「柏市美術会」(根本忠緒会長、会員21人)の「第4回柏市美術会展」が7月3日から柏市文化・交流複合施設「パレット柏・市民ギャラリー」で開かれた。
■写真上:小品から100号を超える大作が展示された会場
■写真上:街角の風景を組み写真のようにセットにした作品を眺める入場者
100号を超える大作があったり、自由にカットした大型のカンバスを組み合わせたり、街角の景色を小品5点にまとめて表現したり。休会の1人を除く20人から油絵、水彩、アクリルなど様々な画材を駆使した個性あふれる計26点が出品された。
■写真:4回目となった柏市美術会展の案内はがき
昨年初めて出品した松谷登さんは、鮮やかな色使いが印象的だった。留学経験もあるスペインなどヨーロッパや渡航先で出合った田園、街並みの心象風景を中心に描いてきた。
■写真:松谷登さんの「月」
今回は、緑深い里山で紅い屋根の農家が際立つ長野・戸隠の空に浮かぶ満月を描いた「月」という新作、30年ほど前に描き上げていたスペインの村「ダロッカ」の風景画2点を出した。
松谷さんは「最新の作品とかなり前に描いた作品を並べ、比べてみたかった」という。言外に作家は同じものを描くだけでなく、進化して変わっていくのをアピールしたい、との想いがにじむ。
散歩の途中で出合うなどした草花を水彩画で描き続け、先ごろ「花も実もある人世サ」という19回目の個展を開いた上田昭久さん。同美術会展の常連だが、熱帯の帰化植物「ジョウジョウソウ」と手賀沼の風景画に加え「偶然見つけたこの風景」と名づけた2枚一組の作品を出した。
■写真:上田昭久さんの「偶然見つけたこの光景」
竹を組んだ垣根にさりげなく置かれた落とし物(?)の片方の赤い手袋の絵と、民家の玄関先の植え込みの中にある白い石膏像の頭を描いた絵のセット。近所や手賀沼へ行く途中に見かけて題材にした。
「花ばかりでなく、何かないか、いつも歩いて探し回っているから」と上田さん。石膏像は伸びた植え込みに隠れ、今は見えなくなったという。
上田さんは今年80歳。先の個展では花の絵とともにトランプの絵札に土偶を登場させたり、ペン画で古木・巨木を描いたり。新しい作品に意欲を見せていた。
生命体に深くかかわる水の「AQUA」(アクア、ラテン語で水の意味)をテーマに創作を続ける若手の神田みきさんは、今回もAQUAの3作品を出した。渦潮のような藍の渦巻き、ターコイズブルーの海中で踊る女性……。神田さんは「コロナの社会を水で表現しました」
■写真上:神田みきさんの「AQUA」の3作品
事務局を預かる香島ひで子さんは、かつて房総を歩いて漁村の風景を描いていた。40代の頃、ヨーロッパ旅行先の風景に接し「描きたかったのはまさにこの風景」と実感した。帰国後、旅先で見た風景を想い描いて筆を執っている。
■写真上:ヨーロッパの街並みの心象を描いた香島ひで子さんの「追想」
水辺の小高い丘に連なる家々が、夕暮れの水面に映える幻想。今回もヨーロッパで見かけた街の心象を想い描いた香島さんらしい作品だ。
「人物、静物、風景といろんなタッチの絵を描いているうちに、自分なりのカラーが出てくる。自分の作品とわかってもらうとうれしい」
市内ではプロ作家らによる美術会、美術展がそれぞれに展開されてきた。香島さんらは柏の芸術・文化振興のため、2016(平成28)年12月、新たに会員制の「柏市美術会」を発足させた。
17年4月に「柏市美術会設立準備展」を同会場で開催し、18年の第1回展から定期開催をスタート、20年はコロナのためやむなく中止し、21年に再開して今回第4回展を迎えた。
香島さんは「会員は、口には出さないが、メラメラしたものを心に秘めている。出品作品を手抜きすると見破られる、という緊張感もあると思う。そんなプロの絵を中央に行かなくても、見て頂きたくて企画している」と話した。
■写真上:関口聖子さんの「切り取られた記憶」(左)と「再びの展開」、黒田邦裕さんの「存在の証明」(3枚組)
■写真上:細野茂紀さんの「冬暁」(左)、山下恭子さんの「花」(右)
■写真上:海東照子さんの「追想の刻」(左)、根本忠緒さんの「WORK秋奏」(右)
■写真上:伊藤一子さんの「サクラ咲く港の町」(左)、石﨑琇子さんの「組曲」(右)
(文・写真 Tokikazu)