自然の造形美に魅せられて
草花を水彩で描き続ける上田昭久さん
■写真上:入場者をもてなす上田昭久さん、満子さん夫婦
会場に入ってすぐ左手に「花も実もある人世サ」と書かれた額が飾ってある。早春を告げるボケと出合って描き、秋、色んな形の実をつけるのを知った。同じ花を咲かすが、成長してそれぞれにつける実は様々。そんなボケの姿を人世に重ね合わせて、作品展のタイトルを「花も実もある……」にした理由が説明されている。
今年の個展案内に「コロナ禍で昨年は中止となりましたが、自然界の植物、花や実は季節を問わず、逞しくその生を営んでいます。その勢いに負けじと、彩管を執り続けて参りました……」とある。2年ぶりの個展でいつもより出品が増えた訳が読み取れた。
■写真:個展を案内する葉書
ドクダミ、ツバキ、プリムラジュリアン、セントポーリア、ザクロ……。新作とともに原点となったボケやアザミ、コチョウランなどの原画が250角の額縁に納められ、四方の壁に掛けられている。
■写真上:いつもより出品が多く、会場いっぱいに飾られた作品(左)、ポインセチア、アジサイ、ビワなど多彩な作品コーナー(右)
今回は「懐旧風景」と名づけた里山、柏市名戸ヶ谷で見かけた大木を描いた「大樹」という、上田さんとしては珍しい風景画2点も出品された。それぞれ作品1点ずつに説明も付けられている。壁際のテーブルには葉書大の原画とともにプリントされた絵葉書も展示された。
■写真上:気が向けば描くという風景画。「懐旧風景」と名付けられた
2003年のPart1は松戸市が会場だった。野田市のイタリアンレストラン、茨城県取手市の大型商業施設、都内のギャラリーなどで回を重ね、最近はいしど画材ギャラリーが多い。作品はボタニカルアート(植物細密画)のようでもあるが、上田さんは「花の命は身近い。実物を見ながら強調したり、省いたりして1、2日で描き上げる。それとは違う」という。
東京・高円寺生まれ。山口県出身の父久之さん(故人)は石仏画で知られ、第一美術協会会長も務めた油絵画家。後姿を見てきた上田さんも幼いころから絵に親しんだが、デザインを勉強した。都内の広告代理店などに勤め、新聞広告や有名メーカーのワインボトルラベル、紙パック飲料のデザインなどを手掛けた。
■写真上:お気に入りの「大樹」の前で「明暗に苦労した」と作品を語る上田さん
退職後、「油絵は難しくて、親父のようにはなれない」として水彩画を始めた。日本出版美術家連盟の会員となり、個展のほか、同連盟展にも出品する。2008(平成20)年9月、東京・お茶の水で開いた「Part7」は亡き父との「父子展」だった。
「四季の歌」で知られる歌手芹洋子さんが2019年にリリースしたCD「逢えてよかったね」の歌詞がある中絵に上田さんの「ハナミズキ」が使われた。
■写真上:ハナミズキが使われた芹洋子さんのCDの中絵
一連の作品と一味違う植物のフォックスフェイスと郷土玩具のキツネの面を組み合わせた「フォックスフェイスとお面」と「梟(フクロウ)と雪ん子」と題したペン画が出品された。二つの作風と飾り方にデザイナーらしい発想、感性がにじむ。
■写真:郷土玩具のお面とフォックスフェイスを組み合わせた作品
たくさんの作品に囲まれた上田さんは「素材探しや作品の筆感、明暗に苦労するが、描くのは生きがいのようなものだ。息がある限り描き続けたい」とにこやかだった。
■写真上:原画をプリントした絵葉書も展示されていた(左)、壁際のテーブルには葉書大の原画や絵葉書が展示されていた(右)
■写真上:「遊び部屋」と呼ぶ自宅2階で制作を続ける上田さん
(文・写真 Tokikazu)