ミュージアムINFO

5月

     5月

身近な草花に癒やされて
薫風のゴールデンウイーク

 



 

谷津ミュージアム構想

 

場所:我孫子市岡発戸(おかほっと) 都部(いちぶ)地域の36.7㌶

所有区分:市有・借り上げ4.3㌶、民有32.4㌶

環境:里山の植生、鳥68種以上、チョウ50種以上、トンボ26種以上、その他

目標:農業者、市民、行政の協働事業で生物の多様性を考慮した谷津環境を保全、再生する。山林の緑、水辺の生き物、伝統的な農業や暮らしの風景など、生きた自然と郷土の歴史、文化を展示物や教材とし、ありのままの姿を「風土」として感じることができる屋根のない「野外博物館」を目指す。

身近な草花に癒やされて
薫風のゴールデンウイーク

――コロナ禍2年目のゴールデンウイーク。今年は都県境越えの移動自粛といった感染予防策が呼び掛けられるなど、人間界は先の見えない災難に見舞われている。一方の自然界は季節の草花がいつものことのように顔を見せる。

写真上:白井市指定の天然記念物「火伏の公孫樹(イチョウ)」。市内でも最大級の巨木(左)、大火で焼け残ったイチョウの幹。幹回り5.1㍍の割れ目の奥に焦げた跡があった(右)(白井市の来迎寺)

 

 

白井市折立の来迎寺には320年前、寺を含む全村が火災に遭っても焼け残り「火伏せの公孫樹」と呼ばれる幹回り5.1㍍のイチョウがある。天然記念物として有名だが、参道入り口に「折立菖蒲園」があり、隠れた名所になっている。

 

我孫子市の天神坂

 

写真上:紫色が特徴の花。「優しい心」「忍耐」などの花言葉がある(白井市の折立菖蒲園)(左)、境内で参拝客を迎えるように顔を出している草花(白井市の来迎寺)(右)

 

 

 

紫一色の花が一面に咲き、参拝客らを楽しませている。そんなに広くもなく、観光的な施設もない。それでも花の間に木道が設けられ、じっくりと花を観ることができる。たまたま居合わせた女性グループは「まだ少し早いようだけど、きれいねー」と散策していた。

 

 

写真上:見頃を迎えた菖蒲園。園内の木道を歩きながら花を楽しむ(白井市の折立菖蒲園)

 

 

 

手賀沼北岸の我孫子市側では、両側に20本ずつ計40本ある古木の藤棚が紫の花を垂らし、木漏れ日が歩道にモノクロ模様を描く。すぐ脇では色とりどりのポピーが今盛りとばかり咲き誇っていた。

 

 

 

 

写真:40本の古木で約100㍍の藤棚をつくる。散歩の市民を守るように園路に木陰を演出していた(左)、手賀沼湖畔の花園。春の陽光に輝くように見えた(上)(我孫子市の手賀沼湖畔)

 

 

 

 

 

柏市の県立柏の葉公園のバラ園も開花が始まった。花はいつもより早いという。83種、約1600株があり、毎年見学者を喜ばせている。円形に近い園中央にツルバラのドームがあり、これからが見頃だ。バラ園を外側から囲む花壇に黄、紫、白、オレンジのカラフルな花が初夏の陽気を浴びて鮮やかだ。

 

 

写真左:例年より早く咲き出したバラは三分咲き。これからが見頃だ(県立柏の葉公園のバラ園)

 

 

 

 

 

 

写真上:83種類のバラの中で代名詞のような紅いバラ(県立柏の葉公園のバラ園)(左)、バラ園を外側から囲む花壇を彩る花々(県立柏の葉公園)(右)

 

 

 

県無形民俗文化財「篠籠田の三匹獅子舞」で有名な柏市篠籠田のお寺「西光院」はボタン名所でもある。本堂裏側のボタン園では盛りは過ぎたが赤やピンク、黄色の大きな花が艶やかだった。ボタン園の周りに赤いシャクナゲも咲き誇る。

 

 

写真上:盛りは過ぎたとはいえ大きなボタンが存在感を示していた(左)、次の主役(?)となるアジサイ。着々と葉を伸ばし、芽を膨らませていた(柏市の西光院)

 

 

 

 

毎年、紅葉が見事な柏市逆井の観音寺は新緑の真っ盛りだ。カエデなどの緑の濃淡が目にしみる。境内の所々にはシランなどのピンクや白の小さな花が群れるように自生している。

 


写真上:可憐な紫のシラン(紫蘭)。境内のあちらこちらで咲いていた(左)、境内樹林の下草のように生えているピンクの野草(右)(柏市の観音寺)

 

 

今は新緑の木々だが、季節の移ろいとともに「変身」する。今秋もきっと見違えるような燃える紅葉を見せてくれるだろう。

 

 

写真上:春の陽光を受けて輝く新緑の木々。秋には紅葉の名所になる(柏市の観音寺)

 

 

(文・写真 Tokikazu)

 

豊かな自然を次世代に
我孫子の広大な谷津を観察、保全

――我孫子市のほぼ中央にある「谷津ミュージアム」は住宅地に隣接しているが、春にはオタマジャクシが泳ぎ、夏は蛍が飛び交う水辺が健在だ。我孫子市も豊かな谷津の原風景を次世代に残そうと、2002年から市民協働の「谷津ミュージアム事業」を始めた。1999年創立の「岡発戸・都部の谷津を愛する会」、04年結成の「谷津ミュージアムの会」、06年スタートの「あびこ谷津学校友の会」などの市民グループが観察、環境保全に努める。

写真上:谷津の観察に集まった参加者。豊かな自然を楽しんだ

 

 

 

「愛する会」は手賀沼と流域の魅力を発信し、環境保全を進める柏、我孫子、印西など流域7市と各市民団体による「手賀沼流域フォーラム」の活動に参加。その一環で5月29日に観察会「谷津の春を観察しよう」を開催し、地元や柏市の家族連れなど22人が参加した。

 

写真:待ちきれない子どもたちはさっそく谷津を探検

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

谷津入り口の作業小屋での開会式で「愛する会」の田島友昭会長は「コロナの関係で開催するか悩んだが、少しでも自然を見て頂ければ、って思って開くことにした」とあいさつした。

 

 

講師は自然観察、保護活動をする野田市の元中学校教員柄澤保彦さん。柄澤さんはカエルの正しい持ち方として両足をつかんでぶら下げを実演、クリの枝を持って一つの枝に雄花、イガグリになる小さな雌花があることを紹介して参加者の関心を引いた。

 

 

写真:講師の柄澤保彦さん。豊富な知識と巧みな話術で参加者の関心を集めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作業小屋からスタートし、水辺のガマの穂やマダケ林を見ながらいったん隣接する住宅地の道路に出る。住宅の基礎コンクリートの隙間から枝をのばし、白い花を咲かせたノイバラ、排水パイプ内でとぐろを巻くマムシを発見した。怖いもの見たさの参加者が集まると、マムシは奥に姿を消した。

 

 

写真上:民家の塀の間から茎を伸ばしたノイバラ(左)、採取されたオオスズメバチ。後に放たれた(右)

 

 

 

柄澤さんは「ここからが本番ですよ」と「谷津ミュージアム」の案内板がある歩道に入った。右手にうっそうとした森、左手に湿地があり、深緑の中に黄色のモミジイチゴ、かつては湿布薬の材料だったという赤い実のニワトコ(接骨木)が顔を出す。奥の沼で家族連れがザリガニ釣りに興じていた。周辺の湿地では盛夏にはヘイケボタルが出没するという。

 

谷津ミュージアム

 

写真上:谷津ミュージアムの案内板(左)、谷津ミュージアムの案内図(愛する会のパンフレットから)(右)

 

 

花菖蒲

 

写真上:モミジイチゴ。小さなオレンジの実が愛らしい(左)、かつては湿布薬になったというニワトコの実(右)

 

 

 

谷津を左回りに一周するようなコース。南側の我孫子ゴルフ倶楽部との境界は金網で仕切られている。金網の下に見えるややえぐられた跡はタヌキなどが出入りする獣道だそうだ。所々に今では懐かしいアリジゴクの小さなすり鉢状の罠もあった。たくさんの白い鈴をぶら下げたようなナルコユリや雑草の節に白い泡を吹きつけているアワフキムシもいた。

 

トンボ

 

写真上:かつては民家の軒下で見かけたアリジゴクも健在だった(左)、葉をひっくり返したら白い小さな花をたくさん付けていたナルコユリ(中央)、アワフキムシだろうか、散策路脇の草木に白い泡を付けていた(右)

 

 

 

湿地のぬかるみには板が敷かれ、深い草木が生い茂る歩道を抜けると、田植えが終わった田んぼが広がった。その先に出発場所だった作業小屋が見えた。午前10時半にスタートして約1時間半。歩数計は6000歩を超えていた。

 

 

写真上:田植えが終わった田んぼ道を歩く参加者

 

 

終わりの会で、柄澤さんは「身近に素敵なところがあるのは我孫子の誇り。ここが残るのは汗を流す人がたくさんいるからだ」と語った。妻と小学1年男児の一家で参加した柏市の40代会社員は「手賀沼周辺に興味があった。自然を守ってくれる方々がいるのでこんな体験ができると思った」と話した。

 

「愛する会」は年二回の観察会と毎月1回の散歩の会を企画する。次回の観察会は秋だそうだ。秋にはどんな谷津になるのか、想い描いてみたくなった。

 

 

写真上:あちらこちらにある水辺に子どもたちは興味津々だった(左)、ショウブ群生地でみられた花の痕(右)

 

 

 

写真上:水槽のアメンボウを観察するちびっ子

 

 

(文・写真 Tokikazu)