自閉症クリエーターを育成
日本画家が続けるワークショップ
赤いライオンや青い縞があるトラ、首の短いキリン、黄色い目のゾウ……。独特の感性による動物、宇宙に広がるような無数の点、格子、波模様。A5判の小さい物からF50号の大きな作品が不思議な世界を醸し出す。
一般財団法人「AOAart」主催。タイトルのように「自閉症なのか、アーティストなのか」というAutistic(自閉症)or(または)Artistic(芸術家)を表す略語だ。自閉症クリエーターを育て、彼らのアートを発信するなどを目的に月1回のワークショップから生まれた作品を集めた。今回の作品展は2019年に続いて2年ぶり4回目だという。
■写真:会場入り口に置かれた案内ポスター
「AOAart」の代表は茨城県つくば市在住の日本画家藤島大千さん。日展会員で、女性や子どもなどをモチーフにした人物画で現代日本画の第一人者とされる。藤島さんは「ここにある作品は専門教育を受けたわけでもない彼らの、心の中から湧きあがった嘘のない作品。心に浮かんだ絵を無意識に描いている」と紹介した。
■写真:MASAKIさんの作品を紹介する藤島大千代表
12月11日には会場に長さ10㍍、幅1.4㍍の白いキャンバス布を敷き、自閉症のシンボルカラー・ブルーでアクリル画を描くワークショップがあった。自閉症の人と市内のおおたかの森、常盤松の両中学校美術部員1、2年生計30人が参加した。「AOAart」の活動に共感する「2021 ミス日本ミススポーツ」の髙垣七瀬さんも駆け付け、司会を務めた。
参加者の中学生らは数人のグループに分かれ、言葉を交わさないという条件の下に20分交代で思い思いに絵筆を振るった。2年生の男子は「人の心に語りかけられるようなものを描ければ」と秘めた気持ちを話した。
中学生らの筆が進むにつれ、純白のキャンバス布には同じブルーでも藍色、青色、水色のコントラストが生まれ、見事なグラデーションを作り始めた。マイクを握った髙垣さんは刻々と変わる変化、自分が感じたままの印象を中学生らに伝えた。
■写真上:ワークショップでブルーの作品に挑む中学生
藤島さんは8年前、取材旅行で中国・北京の知人を訪ねた時、北京の若いアーティストが自閉症の人たちとコラボして作品展を開いているのを知った。日本でも広めようと翌2014年、「AOAart」を立ち上げた。
■写真上:中国の子どもたちの作品を眺める家族連れ
自閉症の人が通う施設を訪ね、絵を描いている利用者がいないか聞いたことがある。担当者は首をひねりながら50代の男性が描いたものを持ってきた。「施設の人は落書きとでも思ったのだろうが、素晴らしい絵だった。これを皆さんに作品として見てもらいたいと思った」
ほぼ月1回のペースで自閉症の子どもと保護者らを対象にしたワークショップを始めた。自身の作品展を開いたり、日本画教室を開催したりの縁がある流山市生涯学習センター(流山エルズ)が会場になった。
■写真上:入場者は独創的な作品に足を止めて見入っていた
「青い格子」など今回の作品展に数多くの作品を出したONOさん(18)の母親によると、ONOさんは小学校時代、家でミニカー遊びをすることが多かった。6年の時に「AOAart」と出合い、ワークショップに通って絵を描くようになった。
思春期に入ってしゃべれないイライラもあったようだが、絵で感情表現できることで解消できたのか、落ち着いた生活ができるようになったという。アイロンビーズ作りも始め、母親がONOさんの多彩な作品群をインスタグラムで発信していたところ、一般企業の目にとまり、障害者アーティストとして就職が内定したという。
母親は「AOAartには親も気づかない子どもの才能を見出していただき、感謝に堪えません。恩人です」と話している。
■写真上:ONOさんの作品
「AOAart」は今年度、障害者の生涯学習支援活動に大きく貢献した、として文部大臣表彰を受けた。藤島さんは「自閉というイメージとは裏腹の躍動的でエネルギッシュな作品に触れてほしい。彼らの絵を通して自閉症への理解も深めてもらいたい」と話した。今後、中国・北京など外国の取り組みともコラボして活動の枠を広げていきたい考えだ。 問い合わせは「AOAart」のホームページ(https://aoaart.or.jp)へ。
■写真上:数字が好きなYAMATOさんの作品(左)、MARさんの作品(右)
■写真上:MIKIさんの作品(左)、アニメキャラクター好きSOさんの作品(右)
■写真上:MIMUROさんの作品(左)、HIMAWARIさんの作品(右)
■写真:SENさん(左下)らの作品
(文・写真 Tokikazu)