小学生が「つまようじアート」
県立我孫子東高校生の作り方講座
――1人1200本を超えるつまようじを刺す、かなり根気のいる作品に小学生らが挑んだ。つまようじを使ったモザイク画「つまようじアート」に取り組む我孫子市の県立我孫子東高校図書委員会が11月6、7の両日、小学生54人を対象とした「巨大つまようじアート」講座を開いた。児童と高校生が27万2580本で横3.3㍍、高さ2.1㍍の大作を協働制作した。
■写真:完成した作品を囲んで記念写真に納まる児童
児童の好奇心をくすぐり、学ぶ楽しさを知ってもらおうと、2019年からスタートした講座。今回は「サバイバルアニマル」と題し、密漁や自然破壊に苦しむライオン、トラ、サイ、キリンの親子、ペンギンなどを描いた愛媛県新居浜市の画家石村嘉成さんの作品を本人の了解を得て題材にした。
■写真上:元絵となった石村嘉成さんの「サバイバルアニマル」
児童と高校生が1人ずつ受け持つA4サイズに元絵を110分割。モザイク画作製のパソコンソフトで5㍉角に分解し、八つに分色した「刺し図」を作る。ようじを刺すカンバス代わりの発泡スチロールパネルに碁盤の目のような5㍉メッシュの目印が付けられた。
■写真上:パソコンソフトで作った「刺し図」。5㍉メッシュで色分けされている
本来ならA4サイズで使うようじは全部で2520本。2日間の限られた時間で、しかも初心者の作業とあって、高校生らがあらかじめ半分程度刺したものが用意された。
■写真上:色分けされたつまようじを1本ずつ目印のマス目に刺す
初日、講座会場に充てられた同校会議室で開講式があった。同委員会の熊倉楓委員長(3年)は「27万本以上を使っての作品づくりです。大変な作業だけど、皆さん2日間使って頑張って取り組みましょう」と呼び掛けた。
同委員会を指導する学校司書の植竹菜穂子先生は作業説明の中で、ようじを厚さ10㍉の発泡スチロールパネルの底につくまで真っすぐに刺すよう強調した。曲がったり、頭がそろわなかったりすると絵柄が悪くなるのだという。
■写真:ホワイトボードでつまようじの刺し方を説明する植竹菜穂子先生
児童は同じ学校同士の2~3人グループ、低学年は同伴の保護者と一緒に作業を始めた。刺し図を見て3~5色を暗記して一気に刺す子や、刺し図とパネルを横目で睨みながら1本ずつハイスピードで刺す子もいた。
■写真:同伴の保護者に見守られて作業する女児
赤いエプロン姿の同委員会の生徒や応援の卒業生ら総勢23人がサポートした。代わるがわる会場を回って指導したり、助っ人したり。児童らはやり初めの頃は、利き手人差し指の先でようじの頭を押すようにしていた。しかし、数をこなすうちだんだんと指先が痛くなり、親指と人差し指で挟むよう工夫して続けた。初日で作業を終える児童もいたが、ほとんどは翌日まで持ち込んだ。
■写真上:赤いエプロンをした高校生、卒業生が会場を回ってサポートした
2日目。昨年も参加したという小学5年の女児2人は昼食後、間もなく完成させた。「刺し方を忘れていたけど、すぐに思い出して去年より早く終わった」「色が多くて細かく、集中するのが大変だった。でも達成感があって楽しい。他の作品と合わせたらどんな作品になるか楽しみ」
■写真上:自分の作品を見せて記念写真に納まる児童。それぞれの目に達成感が浮かんでいた
児童が完成させると、サポーターの高校生が「できましたー」と会場で報告する度に会場から拍手が沸き上がった。終了予定時間の午後3時過ぎには全員の作品が出来上がった。熊倉委員長は「完成できるかどうか不安だったが、達成感より、2日間で終えてよかった」とホッとした様子だった。
■写真上:初日終了後、熊倉楓委員長(左)ら図書委員会の生徒は修正作業に追われていた
同委員会がつまようじアートに取り組み始めたのは2015(平成27)年の文化祭から。それまでの出し物は料理、手芸、工作など本から物を作ることに個人で取り組み出品していた。その年の文化祭を前に、皆で協力してできる一つのものを作り、たくさんの人に見てもらおう――と話がまとまった。
風景や海洋生物、鳥、県のマスコット「チーバくん」などをテーマに制作を続け、今回で13作目。昨年10月には「あびこ市民プラザ」で開かれた手賀沼ゆかりの作家、作品を集めた「手賀沼と民藝の心展Ⅱ」に出品された。2点で計25万8460本を使った「カメレオン」「ヒクイドリ」の2作品が展示され、注目を集めた。
■写真上:昨年10月の「手賀沼と民藝の心展Ⅱ」に出品された作品
同委員会の制作活動は、新聞やテレビで紹介され、全国から「素敵な作品なので、ぜひうちの学校でもやってみたい」などといった問い合わせが舞い込むようになった。
植竹先生は「生徒のモチベーションが年々上がっている。根気のいる作業を通じて忍耐力や辛くてもあきらめない心が身についてくれればいいと思う。講座では普段は内気で大人しい生徒たちが、生き生きと参加者の面倒を見てくれる。その姿を見てやってよかったと思う。彼らにとってこの2日間はきっと宝物になる」という。
■写真上:真剣に取り組む児童の作業を手助けする高校生
熊倉委員長は「1年から始めたが、ようじを発泡スチロールに刺すのが新鮮で楽しかった。でも途中で飽きちゃって進まない時もあった。読み聞かせのボランティア活動などもしたが、それでも『完成させなきゃ』って思ってずっと刺し続けた。そうしたらいつの間にか忍耐力や集中力が身についていた。辛い作業だけど、頑張った努力が達成感などでドーンとかえってくる」と話した。植竹先生の思い、気持ちは通じているようだ。
完成した作品をつなぎ合わせる土台作りは卒業生の仕事らしく、初日の作業終了後、近くの廊下で組み立てられた。2日目、制作が終わり、児童が控室で待機する間、土台に110の作品が次々と運ばれた。壁面に両面テープを使って貼り付けられて瞬く間に完成。作品と対面した児童、保護者から「わー」との歓声が上がった。早速、作品を囲んで記念写真を撮っていた。
■写真上:作品を陳列する土台作りの卒業生。裏方に徹していた(左)、刺し終えた作品を運び、土台に飾り付ける高校生(右)
作品は11月13日から市内新木近隣センターを皮切りに来年2月にかけて湖北地区公民館、あびこ市民プラザ、イトーヨーカドー我孫子南口店などを回って展示される。展示が終わると、作品のようじはすべて抜かれて色別に分けて保存され、新たな作品に再利用される、という。
(文・写真 Tokikazu)