手賀沼の畔に小動物園!?
等身大のアルミ製に匠の技
■「見上げればアフリカ(キリン)」人類の祖先はアフリカで誕生して永い時をかけ現在にいたっている。アフリカが我々の故郷だ。キリンの首があれほど長いので、きっとアフリカが見えているはず
我孫子市を走る県道の通称「船取線」の手賀沼にかかる手賀大橋の北側交差点脇の草地にニョキと長い首の「キリン」が姿を現した。市役所本庁舎方向をじっと見つめている。東側にある水の館1階の手賀沼ステーションでは「シマウマ」の親子が入館者を出迎えていた。
鳥類最速という「ダチョウ」、精悍な顔立ちの「ハシビロコウ」の二羽もシャキっと立っている。館内展示のバードカービング(鳥の彫刻)で手賀沼の鳥として紹介されているオオバン、カイツブリ、カルガモなどの仲間入りしたようだ。外の手賀沼親水広場では6体の犬のように見える「プリニウス」がそれぞれ三つの支柱に乗って輪になり、追いつ追われつつ走り回る。
「船取線」を挟んで西側の手賀沼公園にある生涯学習センター「アビスタ」のロビーでは「サイ」の親子が家族連れを楽しませる。ミニSL子ども広場では作品の骨組みがワイヤーアートとして紹介されていた。
JR我孫子駅南口の千葉銀行我孫子支店ロビーで「プレーリードッグ」と「カモノハシ」、市役所本庁舎ロビーでは左手に花束をつかんだ「ゴリラ」が来庁者に優しい視線を送る。杉村楚人冠庭園では尻尾を上げて今にも取っ組み合いをしそうな2匹の「イノシシ」がにらみ合う。
市民参加のまちづくりと地域の文化・創造活動を後押しする我孫子市民グループ「我孫子手づくり散歩市」(太田安則代表)が市制50周年記念事業として企画したアーチスト島田忠幸さん(73)=茨城県取手市=の「プリニウスの動物たち」と題した個展だ。
プリニウスは、古代ローマの有名な博物学者。天文、地理、動植物、絵画・彫刻などを網羅した百科全書「博物誌」を著し、後世の知識人らに大きな影響を与えた。
島田さんの工房は、壁に大小無数のベンチ、バール、のこぎりなどが掛かり、万力やドライバーなどの電動工具がぎっしり。まるで鉄工所のようだ。「博物誌」に出てくる動物などをモチーフに作品作りを続ける。
■写真上:鉄工所のような作業場で、制作を続ける島田忠幸さん
動物園で実物を見て覚え、床の鉄板に石筆で下絵を描く。スケッチはあまりしないという。これを基にスチールワイヤーを溶接などして骨組みを作る。ミニSL子ども広場で展示しているようなものだ。骨組みに合わせて洋裁のように型紙をとり、アルミ板を裁断。球状だったり、レール状だったりの金床を使ってハンマーで叩き、形づくる。
「常に新しい物を見たいという意識が強い。自分が見たいもの、興味があるものを作っている。作ってしまえば思いは離れて、執着しない。そして次の意識に移ってしまう」と島田さん。動物シリーズはこれまで32体を制作したが、100体を目標に保管する倉庫を確保したそうだ。制作意欲は盛んだ。
手賀沼周辺を散歩しながら各所で展示する作品を楽しんでもらう「我孫子アートな散歩市」を企画してきた太田代表は「匠の高い技術で作られた動物たちを手賀沼湖畔に集め、見てもらいたかった。水辺空間の中で実物大の作品を楽しんでほしい」という。
作品
■「草原の貴婦人(シマウマ)」美しいシマウマの縞模様が気になっていた。虫除け迷彩いろいろな説があるが定かではない。この模様を如何にして描くか、思いついたのが日本画で使う青銀箔。かなりシュールでよい。時間が経つと銀箔なので経年変化で黒っぽくなるのも楽しみだ。10月19日から「アビシルべ」に移動。
■「追うプリニウス逃げるプリニウス」心の意識の中で常に何かに脅えたり、逃げたいと思う強迫観念はだれにもあるだろう。時代の先頭を走ってた者の価値観が変わったら追われる者になっていた。戦前戦後またはコロナ禍。なにが善で悪だかわからない時代を感じる。追う者がいつの間にか追われる立場になり、逃げることができない時代
■「プリニウスのサイ(インドサイ大) おやサイ(インドサイ小)」制作にあたり、いきなり大きなモノを作るのは難しいし困難だ。まずは、床に3分の1の絵を描き、それにそって番線を曲げて立体彫刻デッサンを作る。それを頼りにアルミニウム板を切ったり叩いたり。あるいは溶接して小型サイズの作品ができあがり基本原型になる。これからが本番だ! 小さいサイは子供ではなく親サイになる
■「ワイヤーアート」彫刻作品を作る過程で使うマケット(試作模型)だ。大きさや形が決まったところで型紙をとり、型紙から金属素材へと写しかえて本作品が出来上がる
■「存在の不条理(イノシシ)」 哺乳類は約4500種いるが、中でも嫌われ者はイノシシだ。人に見つかると退治され、鍋の中。でも大丈夫、子だくさんだから
■「ハシビロコウ」(左)動かない鳥として人気が高く、精悍な顔立ちのハシビロコウだが、羽を広げると2.5㍍にもなり飛べる。その翼が気になり、作ってみた
■「ダチョウ」(右)鳥の中で最も速く、時速60㎞以上で走ることができ、背の高さは2.2㍍にもなる。このダチョウは進化が進み、100㎞で走ることができる
■「タコ壺の兵士(プレーリードッグ)」巣から顔を出し、すぐに立ち上がり周りを見、監視する姿が実に面白いし可愛い。映画「硫黄島からの手紙」で、兵士が塹壕を掘りながら海を見、監視するでもなく立ち上がる姿と重なり、プレーリードッグに鉄兜をけてみた
■「カモノハシ」日本の動物園にはいない。オーストラリアに行けば見られる。歯がなく、子供を卵で産む唯一の哺乳類。銅箔を貼り付けて仕上げた
■「恋するゴリラ」ゴリラは荒々しく粗野なイメージがあるが、知能が高く繊細な性格でとてもシャイ。好きな雌が前にいるとイジイジして目を見ることすらできない。威嚇するときは両手で胸をたたき、音を出しドラミングする。戦いを避ける行為だ
■作品説明はいずれも作者原文
(文・写真 Tokikazu)