生涯かけた「下総玩具」
101歳の集大成が一堂に
創始者・故松本節太郎さんの作品展
――干支や西遊記に登場する動物に猫や河童、花魁、町娘、だるま……。自宅裏山の粘土を野焼きしたり、使用済み和紙を再利用して張り子にしたりの素朴な人形がいっぱい並んだ。「下総玩具」と呼ばれる作品の数々だ。創始者の故松本節太郎さんが101歳で亡くなる直前まで創作意欲を燃やした作品が9月6日から我孫子市の「あびこ市民プラザ」で展示されている。
松本さんは1903(明治36)年、東京・下谷生まれ。家業は染物屋だったが、戦時中、親子4人で柏に疎開した。ひょんなことから裏山の粘土で人形作りを思い立ち、干支や七福神の首人形を作り始めた。土をてびねりして形を整え、素焼きしたものに色づけした。石膏の型に和紙を貼り付ける張り子も加わり、モチーフは動物から天神様、南蛮人、お面、紙雛などに広がった。地元にそうした玩具がなかったことから「下総玩具」と名付けた。
■写真:故松本節太郎さん
かつては生活のために首人形などをリュックに詰め、東京に出かけ、上野や浅草で1個10~20円で売り、帰りに味噌や醤油に代えて帰る日々もあった。モチーフは様々だが、シンプルでわかりやすく、デフォルメ的な表現が受けて評判になったという。独特の色合いは染物屋で育った影響が大きい。
■写真:「おっぱい」。色付けなしの作品も数多い(左)、天神様。初期に好んでつくった(中央)、首人形。様々な種類がある(右)
大小様々の作品が並ぶ会場だが、入り口近くに101歳10か月で亡くなる直前に作った「雨だれ」という小さな作品が数多く並ぶ。高さ2~3cmで円錐状。「人生は軒先から地面に落ちて消える『雨だれ』のようなものだ」と話していた松本さんの遺作だ。カラフルに色づけられたものがある一方、土を乾燥させたまま、未着色のものも多く残っている。
作品展の主催者でもある「手賀沼アート・ウォーク実行委員会」の鈴木昇会長は、松本さんと友達付き合いだった。会場での講演で「明治生まれの奇骨というか、奇人というか……。ユニークな作風は絶対にまねができない。町娘も美人は少ないが、内面の良いところ、醜いところ、喜怒哀楽といったものを表現しようと面白がって作る。だから一つのモチーフでも数が多くなる。同じ作品は二つとしてない」と強調した。
■写真:招き猫と娘人形(左)、ネタ帳ともいえる「人生カード」(右)
松本さんは88(昭和63)年、鈴木さんが創設者の一人でもある第1回ヌーベル文化賞(東葛地域の民間文化・芸術表彰)を受賞。97(平成9)年には鈴木さんが経営する柏市の「ギャラリーヌーベル」と地元有志の提案で、JR柏駅西口のダブルデッキや階段の壁面に松本さんの小面約85点が等間隔で1点ずつはめ込まれた。
2003(平成15)年には「ギャラリーヌーベル」に下総玩具資料室が開設された。作品展は同ギャラリーや柏高島屋、高崎高島屋で遺作展が開かれたが、我孫子での開催は初めてだ。
鈴木さんは「資料室には地元より大阪や九州など県外からの見学者が多い。地域の文化をどう残していくか。何かの形で残していきたい」という。
作品展会場には里山など日本各地の風景を木版画で描いた浮世絵師川瀬巴水の人形画24点も展示されている。
「下総玩具」の作品はシミズメガネ(本店・柏市)の運営サイトで詳しく閲覧できる。
(文・写真 Tokikazu)