――「ロックだけの小屋なんてつまらない」。柏駅東口、ハウディモール脇のプールドゥビル5Fに構えられたライブハウス「StudioWUU」では、日々さまざまな音楽が鳴らされる。ジャズ、ロック、フォーク、はたまた琉球民謡まで・・・瀟洒なミュージック・ホールに響く音は、時代も国籍も問わない。ただ、その人の一番「表現したい」ものを、「ありきたりなものに毒されないオリジナリティ」を見せて欲しい・・・。面白い表現を貫いてもらうために、出演アーティストにチケットのノルマは課されず、若手たちの強い味方でもある。
さて、WUUの舞台を囲むオフホワイトに塗られた壁は、「壁ギャラリー」と名付けられている。その名の通り、壁をギャラリーとして提供する試みで、展示期間は約1か月と決まっている。毎月の展示替えを行うたびに、ホールも舞台も、表情がガラリと変化する。
舞台は音のために、そして壁は作品のために。常に新しい表現を求めつづける「StudioWUU」。今回は、WUUを経営する阿部さんご夫妻にお話をうかがい、ライブハウスと若手音楽アーティストや美術作家との関わり、そして「表現」のあり方について、思いを語っていただいた。
「やってみなよ」から始まる舞台
- StudioWUUさんでは、本当にさまざまなジャンルの音楽のライブが開かれていますね。ここで演奏される方々は、どんなきっかけでステージに立たれるのでしょうか?
-
徹志 僕たちから、面白いな、と思ったアーティストには「やってみなよ」と声をかけているんです。地元である柏のアーティストはもちろん、遠いところだと、つくば市、坂東市・・・田端から来ました、なんて人もいます。ノンジャンルで、ジャズでも、フォークでも、ロックでも、弾き語りでもいい。他にも、音楽教室の発表会に使ってくれることもあります。サックス教室で50名の発表会をやったこともありましたね。
- 50名もですか!このホールに50名のサックス奏者がいらしたとなると、なかなかすごい光景になりそうですね。
-
徹志 ある程度、本格的な演奏ができるような設備を揃えているので、だいたいどんなジャンルの音楽でも大丈夫。だから、あんまり「場末感」がないでしょう(笑)。ミュージック・ホールの小さいの、みたいな感じです。
- 若手のアーティストさんを支援されていると伺いましたが、具体的にはどのような形で支援なさっているのでしょう?
-
徹志 普通のライブハウスでは、出演者にチケット販売のノルマがあります。もちろんライブハウス側でもチケットは売るんですが「出演者側で最低○枚はチケットを売ってください」って決まりがあるんですね。もし売れ残ってしまったら、もちろん出演者が自腹を切って買い取るしかない。だから、若くてお金のない人たちにとってライブハウスに出るのは結構、大変なんです。だから、WUUではノルマを設けていないんです。もちろん多く方に販売、声かけはしていただきたいですが、売れ残りを心配しなくていい。
- それは「ライブはやりたい、だけどお金がない」という若い人たちにとっては、本当にありがたい仕組みですね。
徹志 こっちは大変なんですが(笑)、自分が表現したいことを大切にしてほしいので。
- ところで、WUUさんではライブの他にも、参加型の企画をなさっているようですね。どんな企画なのでしょう?
-
徹志 定期的に行っているものには、大きく分けて「セッション」と「オープンマイク」がありますね。
- では、まず「セッション」の方からうかがえますか?
-
徹志 「セッション」は、ホストメンバーと呼ばれる案内役が中心となって、その場に集まった人が即興で演奏を楽しむイベント。
WUUでは3種類やっています。オープン当初から続いている「カジュアル・ジャズ・セッション」、上々颱風(しゃんしゃんたいふう)のドラマー・渡野辺マントさんがホストを務める「ファンキー・セッション」、そして、WUU(うー)のセッションから転じた「右脳(うのう)セッション」。いずれも、プロとセミプロが混じって演奏します。コード(和音)の演奏と即興演奏がある程度できる人なら、初心者でもベテランでも参加できます。特に若手というと・・・例えば「ファンキー・セッション」では小学校3年生の女の子が、本格的なバンドと一緒に、マライア・キャリーなんかを歌うこともあります。中学生や高校生の子も参加しています。バークリー音楽院を卒業して、ニューヨークで活動している曽根麻央くんというトランペット奏者も高校生から参加していました。 - 小学生や中学生が、こういうミラーボールがあるような場所でステージに立てるというのは、とても面白い体験になりそうですね。
では次に「オープンマイク」の方をうかがえますか ? 徹志 「オープンマイク」は、詩のオープンマイクと同様に、複数の人がちょっとずつマイクを握って舞台に立つ企画です。1人10分間、2曲まで好きな演奏ができる。予約制で、1日8組まで予約を受け付けます。毎月、上旬にやっていて、次回で126回目。開演は19:00。後の方の演奏者でも、必ず19:00には来てもらって、自分が演奏しない時間はお客さんになってもらうという仕組み。でも予約枠の演奏が終わった後には、19:00には間に合わないという人が、毎回飛び入りで6~10組ほどしています。
- 誰が何をやって、結果的にどんなステージになるのか、当日まで全く予測がつかないわけですね。なぜ、そんな自由な企画をされているのでしょうか?
-
徹志 初めて舞台に立つ人にとっては、いきなりワンステージこなすのは難しいですよね。だから、短い時間で気楽に演奏してもらえるように「オープンマイク」を始めたわけです。
- ライブの時間を使い切るのは難しくても、練習した1曲だけ、2曲だけ発表してみたい・・・という人には、もってこいの企画ですね。具体的にはどんな人が参加しているんですか?
- いろんな人が1つのステージに立つと、とっても自由な舞台になりそうですね。
- ミラーボールのほか、舞台上の照明設備も本格的で、初めてのライブをやる、という方にとっては使いこなすのが難しそうですよね。照明効果はどのように決められるのでしょうか?
徹志 照明効果はだいたい「お任せ」で、こちらでその場で曲に合わせて操作するのですが、何回か出演して、どんな演出が出来るのか経験して分かってくると、自分らしい効果的な演出をイメージして進行表などを考えてくる方もいらっしゃいます。
■写真上:ホール中央で燦然と輝くミラーボール
- アーティストさんがただ演奏するだけでなく、スタジオと一体となって、それぞれのステージが作られているんですね。
- さて、次は「壁ギャラリー」について伺います。ホールの中で取材させていただいていますが、今日も壁には素敵な絵が飾られていますね。
明子 今(2016年3月)の展示は、カワタアオさんという、ライブ・ペインティング (筆者注:描画そのものをパフォーマンスとして見せる描き方のこと) の画家さんの展示です。フェビアン・レザ・パネさんというピアニストのCDを渡してみたら、そのCDに大変なインスピレーションを受けたそうで、そこから浮かんできたイメージを作品にしてくれました。その後、生演奏を聴いたあとの印象から、さらに違ったイメージで新しい絵を描いているんだそうです。だから、まだ増えていく予定です。音楽に触れることで作風も変わる、本人にとっても新しい挑戦になっているようです。
■写真上:カワタアオさんの作品(2016年3月展示)
- 音楽から生まれる絵、というのは、まさにライブハウスにはぴったりですね。ライブ・ペインティングの作家さんということは、実際にWUUでも絵を描かれることがあるんでしょうか。
-
明子 展示の最後、作品を搬出する日に「LAMPO」というバンドの演奏があって、音楽と一緒にペインティングのパフォーマンスを行う予定です。
- それは面白い舞台になりそうですね。他には、どんな方が展示されるんでしょうか?
-
明子 出演アーティストが、自分のCDジャケットの絵を担当した作家さんの絵の中で演奏したい、と作家さんを誘う事も有りますし、こちらがある出演者のCDのジャケットを気に入って、その作家さんを紹介していただくこともあります。他にも、お客さんとしてライブを聞きにいらしていた方が実は絵の作家の方だったりして、その方の作品を展示することもありますね。
- 音楽はもちろん、絵についても、いろんな出会いが生まれているんですね。
- ところで、そもそも、どういった事情でこの壁を使ったギャラリー展示を始められたのでしょうか。
明子 ここの壁って、真っ白で何もないですよね。前のオーナーのときは、ご友人の抽象画を飾っていました。私たちが引き継いでからは、飾る絵も所有していませんでしたので、しばらく白い壁のままでしたが、ギャラリーとして活用してもらえるかな、と思いついたのが2003年頃でしょうか。最初の頃は、なかなか展示してくださる方が見つかりませんでした。そうしたら、知り合いの大野隆司さん(版画家・元柏市在住)が「決まるまでは僕のを飾っていいよ」と言ってくださって、最初の3~4か月は大野さんの絵を入れ替えながら展示させてもらいました。
- 大野さんといえば、猫を主題にした版画で知られた方ですね。ここで展示をやっていたとは、あまり知られていないのではないでしょうか。そういえば、入り口にも大野さんの絵が飾られていましたね。
明子 はい。大野さんがWUUにいらして、コースターに描いてくれた絵もありますよ。とっても嬉しかったです。
■写真上:版画家・大野隆司さんが描いたコースターの絵
■写真下:バーカウンターの横に飾られている大野隆司さんの絵
-
徹志 他にも、ハウディモール(駅前通り)の街灯の上にあるオブジェを作った、喜屋武貞男(きやたけ・さだお)さんに展示ししていただきました。このビルのオーナーである小柳さんのお知り合いで、我孫子高校で美術の先生をなさっていた方です。今でも、年に1回ほど展示をお願いしています。オレンジ、青、白の色づかいで、沖縄の空を描かれる方ですが、特徴としては作品がとっても大きい。
- その後、だんだん、ギャラリーを使ってくれる作家さんが決まっていったということですよね。どんな風に展示する方を集めていらっしゃるのでしょうか?
-
明子 展示は、こちらから「やりませんか」とお誘いする場合と、「やりたい」という方から申し込みを受け付ける場合があります。こちらからお誘いする場合は、自分が「好き!」と思った作家さんに、「○月に展示、どうですか?」と声をかけます。ステージの出演者さんのご紹介だったり、知り合いのカフェやライブハウスからの紹介だったり。
- 毎月、違う方にお願いするとなると、展示する人を探すだけでも大変そうですね?
-
明子 だいたい常に、数ヶ月先までは、予定を立ててあります。ただ、予定を組む仕事は確かに大変ですね。ときには「真っ白にしておくわけにはいかないし・・・」と頭を抱えて、行き詰まってしまうこともありました。どうしても作家さんのスケジュールが合わなくて、展示が決まらない月があると、自分で持っている作品を飾ったこともあります。
(※2017年現在では評判が広がり、来年の予約を受けている状況です。) - ちなみに明子さんは、どんな絵がお好きなんですか?
-
明子 抽象画や静物画が好きですね。また、ホールの壁を使ってもらう都合上、写真や絵画などの平面芸術だけで、立体作品は飾れません。それから、やっぱりライブハウスはステージ上にいる「人」がメインなので、人物画は避けるようにしています。
- ライブに出演される方が、壁ギャラリーの展示内容を意識されることもありますか?
-
明子 定期的に出演している方の中には、「自分がやるときの絵はどんな感じかな?」と気にしてくださる人もいますね。リハーサルをするために店内に入ったとたん、今月のこの作家さんいいね!とおっしゃって、その日のライブを気分よくされる方もいます。
- そればかりは出演者と展示作家の運次第、というところですね。専門の画廊や美術館とは違って、ライブを聴きにいらしたお客さんが、必然的にギャラリーのお客さんにもなるわけですが、展示する作家さんにとっても普段とは勝手が違うものなのでしょうか。
-
明子 ここは音楽をやるための場所、美術の人にとってはいわば異分野の場所ですから、普段、作品を見てくれているお客さんとは、また違った客層になる。それだけに、作品への反応もさまざまです。それから、もともと展示場所として設計してある場所ではないので「意外と壁が大きくて、(展示の)空間の使い方に困る」と言われたこともあります。小品が中心の方なんかは、広すぎて空間が埋まらない、って悩んじゃう。1人だけに限らず、2人展・3人展を開かれる場合もあります。
- 何もない、まっさらな壁だったからこそ、音楽も絵も、さまざまな形の作品を受け入れられる可能性があるのですね。
- では、最後に、音楽・美術の両面から長らく若手の支援を続けてきたお2人にとっての「やりがい」は何なのか、教えていただけますか?
-
明子 WUUは、出演者さんやお客さん、来てくださった方々の出会いの場だと思っています。ちなみにWUUで出会って結婚された方も2組いらっしゃいますす。この場所から、何か「新しいこと」が始まってくれる事が、やりがいになっています。
徹志 ありきたりなものに毒されないで、自分のオリジナリティを表現して欲しいんです。ヒット曲の言葉をかいつまんで混ぜ合わせただけで作った曲では、面白くもなんともないでしょう。他の人がやらないもっと面白いこと、過激なことをどんどんやってほしいと思っています。そのための場所は提供するから、と。 たとえば、いわゆる「不思議ちゃん」で、普段は言ってることがよくわからないなあって思うような子でも、ステージに立ってもらうと「ああ、この子には世界がこんな風に見えているんだ」とわかることもある。そういう子の音楽こそ、とってもオリジナリティ豊かだし、面白いんです。「言いたいことを言ってみようよ!」という精神を大事にしてほしい。僕たちを、驚かせてほしいし、驚きたいんです。その気持ちが、一番のやりがいですね。
- これからも、お二人と、ここを訪れる方々が一体となって、新しくて面白いものが、どんどん生まれていきそうですね。本日はお話を聞かせていただき、ありがとうございました。支援を続けるのは大変なことだと思いますが、どうかこれからも頑張ってください。
徹志・明子 ありがとうございました。
自由な音楽が生まれる企画
徹志 出演者は若い人で20代から、上は70代までいますけれど、40代〜70代が半分以上を占める、といったところでしょうか。オリジナルの曲をやる人もいるし、初めて人前で発表する人もいる。普段、ストリートで演奏している若者がやってくることもあります。他にも、各地のオープンマイクに参加している「オープンマイクめぐり」の人が来ることもあります。「道場破り」じゃないですけど、そんな感じで(笑)。
徹志 オープンマイクがきっかけで、歌い手と、楽器の奏者が意気投合して、ユニットができた、なんてこともあります。色んなこと、毎日毎日、違うことをやりたいんですよね。
ライブハウスが音楽を支える
音と絵の交差点
「何もない壁」がくれた可能性
驚かせてほしい、驚きたい!
■写真:阿部徹志さん・阿部明子さん (ステージ上で)
(取材日:2016年3月4日・StudioWUUにて)