―― 行政機関や個人宅に眠る、昭和時代の古い写真。それらの写真とまったく同じ場所を撮影して比べてみると、 今はもうない建物、今でも変わらぬ面影を残す道、移りゆく時代の姿を見ることができる。2種類の写真のあいだにある時間の痕跡は、老若男女を問わずさまざまな発見をもたらしてくれる。 昔と今の柏の写真を収集・撮影・展示し、柏の歴史を写真から辿らせてくれる市民公益団体「柏ALWAYS」。その代表ご夫妻に、お話をうかがった。
5万枚の写真と格闘して・・・
- 写真の収集にあたっては、柏市との連携をなさっているということですが、どういったご縁からなのでしょうか?
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柏市は大量の写真資料を保有しています。ひとつひとつの写真からは急速に発展してゆく街の様子がうかがえます。市では、この写真を一枚ずつ整理し、柏の街の未来へ残す作業にボランティアとして参加する人を募集していました。
柏ALWAYSのメンバーは、平成22年6月から写真整理のため、ボランティアとして参加、柏市役所沼南庁舎文化課と連携をはかりながら写真の提供をうけています。
(*写真左から田中光子さん・栗原和子さん・栗原忠さん・小形一夫さん・小形秀子さん) - 5万枚とお聞きしましたがすごい量ですね。
そうですね。市との共同作業でした。
- 「柏ALWAYS」さんの活動でも、市役所さんから写真を借りるなどされていると伺いましたが・・・
はい。市からの提供と、写真展においでになった方やメンバーの自宅に眠っていた写真を使っています。ただ、市が持っている写真は市民からの寄託を受けたものが中心ですから、肖像権や著作権、クレジットの有無などについて権利関係が複雑で、使用許可を頂くのも簡単ではありません。
- ほかにも活動の上で大変なことはありますか?
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場所と資金の問題が大きいですね。資金源を確保するのが難しいです。メンバーの出資にも限度がありますし。昭和時代の写真が、なかなか集まらないのも悩みですね。
- 古い写真は、どういった方からの提供が多いのでしょうか?
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やはり、展示会にいらした方からですね。口コミで情報が伝わって。展示にはほぼ毎回「柏ALWAYS」のメンバーが足を運ぶので、それをきっかけに提供していただくことが多いです。
- 写真は現物を提供してもらうのでしょうか?
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最初は現物をいただいて、データ化して、ご返却します。大事なお写真ですから、こちらに残すのはデータだけです。自宅保管するのは、展示に使ったパネルくらいですね。収集した写真は、地域別で4つに分類します。柏を、南・北・中央の3地域に分け、旧沼南町を含む南地域は、さらに2つに分ける。これで4つです。
- いま、写真が足りない地域は具体的にどこですか?
全体的にもっと集まってほしいのですが、柏市の北西部が不足していますね。特に江戸川台近辺・大室・花野井辺りが少ないです。当時、昭和30、40年代は、カメラを所持している人が少なかった時代ですので収集には苦労しますね。
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資金については、収集・撮影した写真の柏の今昔ポストカードやDVDを作成し販売(柏市所有の写真は除きます)、会員の年会費、年2回行われる市民活動フェスタ、フリーマーケットでの物品販売、出前講座(各地域・柏の今昔ものがたり)講師料等で補っています。展示会場は、無料の施設を利用しています。そごう柏店・道の駅しょうなん・図書館本館・南増尾リフレッシュプラザ・地域のコミュニティカフェ・古民家ギャラリー・各種団体などと連携して展示しています。
生涯学習講座を出発点に
- そもそもなぜ、このような活動が始まったのでしょうか?
私(小形)は2005年(平成17年)から柏市が田中近隣センターで開いていた市民講座を受講していましたが、平成20年度に、市の生涯学習事業の中で「昭和」をテーマとした講座が開催されました。この講座は「アミュゼ柏」「田中近隣センター」「高柳近隣センター」の3館で共同企画されたものです。どの時代においても常に世の中が新しいものを生み出す時、傍らで失われて行くものも沢山あります。私達が生きてきた「昭和の良き時代」1枚の写真に思いを乗せてお互いの記憶を共有しませんか、ということで市民講座の受講生有志で柏ALWAYSを立ち上げました。田中近隣センターからは小形秀子と一夫、そして栗原和子さんが参加、高柳近隣センターからは田中光子さんが参加しました。
- 初めて展示をされたのはいつなんでしょうか?
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2008年に市民講座の参加者有志でプロジェクトチームをつくり、皆さんで協力して資料を集め、2009年3月に展覧会を開催しました。会場は2つに分かれて、アミュゼ柏「私とまちのものがたり」を、柏の葉キャンパス駅前UDCK(アーバンデザインセンター)では「柏のいま・むかし写真展」と、これが初めての開催でした。
もう嬉しくてスタッフ一同感動の連続でした。
柏を写真で再発見
- 活動を始めた当初から「昔の写真と今の写真を比べる」というコンセプトはあったんですか?
はい。その考えは当初からのものです。比較してみないと、街の変化はわかりませんからね。昔あった施設がなくなったり、移転したり、別の施設ができたり……昔の写真だけ見ても、今の人はどこを写しているのか分からない。でも現在の写真と対比することで昔の様相が伝わり当時の方々には懐かしく思い出され、今と違う柏の歩みを発見していただけたらと願っています。
- ところで「昔の柏」の写真は収集するとして、「今の柏」の写真は新しく撮られているわけですよね。手分けして撮っておられるんですか?
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はい、柏市北部地域は、栗原忠さんにお願いし、南部地域は小形が撮っています。このデジタルカメラで。
- カメラは元々お好きだったんですか?
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2011年から2013年にかけて、柏たなか環境コンビニステーションの「景観写真講座」で写真の勉強をして、よく撮れるようになりました。柏ALWAYSのメンバーも全員参加されました。とても楽しかったですよ。
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―― 平成26年度、小形秀子さんの撮影した「柳戸・弘誓院の鐘楼」が柏市都市景観賞に選ばれた。柏市都市景観賞とは、柏市制施行60周年を契機にもうけられた市民公募の賞。「歴史を振り返り、柏市に現存する昔ながらのまちなみや風景、歴史的・文化的な建築物等に焦点をあて、後世に残したい景観を再発見することを目的」としている。対象となるのは「昔ながらのまちなみや豊かな自然がつくりだす風景、また歴史的・伝統的な雰囲気を感じさせる建築物や祭り等」だ。
(引用元:http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/140300/p021754.html/参照日:2015/4/5(日))
「あ、私だ!」
- 色々とご苦労の多い活動だと思いますが、やりがいはどんなところにあるのでしょうか?
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写真展に来てくださった方が「私だ!」とご自分が小学生時代姉妹で写っている写真を発見し、懐かしく大変感動されていました。60代の素敵なご婦人でした。後に記念のポストカードを作成してお渡ししました。
- とても丁寧に対応されるんですね。
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そうやって喜んでくださると嬉しいですからね。かつて自分でお持ちだったお店やお宅を手放された方などは、当時の写真を見つけて、いろんなことを思い出されるようです。 ほかにもケアセンターで写真を使った紙芝居をしたとき、ある入居者さんの昔のお写真が出た瞬間「俺だー!」と言って、涙を流された。その方の娘さんが提供してくださったお写真だったんですが、非常に感動されていましたね。そういったときに、やりがいを感じます。
昔を伝える
- ケアセンターでのお話がありましたが、写真展示以外の活動もなさっているのだとか。
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はい。南増尾にある土小学校に出前授業に行きました。2009年柏の葉県民プラザのYPM(ヤング・パワー・ムーブメント)会場で柏の今昔写真展を開催した時に、土小学校3年生の担任の先生が見にいらしていて「ぜひ我が校の授業に」と頼まれ、2010年1月26日、増尾加賀町会の協力応援も得て、今昔写真をA3サイズに拡大し、9台のテーブルに並べて3年生、1,2組59名の生徒さんに見ていただきました。沢山の質問、感想で、とても賑やかで楽しい授業でした。写真だけではなく昔のあそび、コマ・けん玉・竹馬・メンコ・ビー玉・フラフープ・縄とび等体験してもらいました。最後に蜂の巣(キイロスズメバチ)の標本を参考に説明したりしました。
- 写真以外でも昔の姿を伝えているんですね。
柏の歴史を写真で作る
- 各種の地道な取り組みを続けられているわけですが、活動で目指していることは何なのでしょうか?
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私の近所でも物価高騰や近くのスーパーに押されて昔からのなじみの商店が店を閉めています。歴史的な文化財の保存はもちろんですが、私達にできる事は、「失われていく個人の記憶」を資料として残し、後世の人たちに伝えることだと思います。昭和時代の柏の姿を振り返りながら未来に歩む柏の姿を写真資料を通して知っていただければ幸いです。
- 柏の歴史を写真で紡いでいく、素敵な活動ですね。これからも頑張ってください。今日はありがとうございました。
柏ALWAYSスタッフ一同頑張ってまいります。ありがとうございました。
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(取材日:2015/3/29 柏市役所沼南庁舎・市民交流サロンにて)