集め集めて45年、郷土玩具の魅力発信

高梨東道さん(野田市 郷土玩具収集家)

 

文:津島めぐみ/写真:岡崎好

    高梨東道

●活動履歴

・平成29年3月23日BSジャパン
「極上!お宝サロン 開運!なんでも鑑定団」出演

・展示会 平成28年7月~10月
「張子人形の世界へようこそ」
 千葉県野田市郷土博物館

・展示会 平成19年7月~9月
「土人形の魅力」
 千葉県野田市郷土博物館

 

高梨東道さん

――青森から沖縄まで、日本の広い地域に渡って、土人形や張り子人形などをはじめとした「郷土玩具」の文化がある。手作りのぬくもりと、土地それぞれの味わいがあり、年代を経るごとに魅力を増す郷土玩具。そんな郷土玩具の魅力に取り憑かれ、なんと45年以上にわたって一途に集め続けて来た人がいる。
千葉県野田市在住の郷土玩具収集家・高梨東道(はるみち)さん(72)。産地に足を運び、人形作家に手紙を出し、骨董市や郷土玩具の会でも集めに集め、いつの間にかコレクションの数は約7,000点を超えた。今では、そのコレクションで野田市郷土博物館での展示会を開催するほどだ。
寺子屋講座や「郷土玩具の会」の会報への寄稿、そしてテレビ出演など、さまざまな媒体で、郷土玩具の文化を発信している高梨さん。
「人形がなくなったら、生きがいがなくなってしまう」――それほどまでに高梨さんを惹きつける郷土玩具の魅力とはどのようなものなのか。実際の作品や資料を見せていただきながら、詳しくうかがった。

*敬称は省略させていただきます 。
 

郷土玩具専用の部屋

高梨さんが郷土玩具の収集を始められたのは27〜28歳のときだというお話でしたが、収集を始めたきっかけについて詳しくお聞かせいただけますか?

高梨 うちの近所の収集家の方が、郷土玩具を見せてくださったのが最初でした。郷土玩具に触れたこと自体、そのときが初めてで、「こんな変わった、面白いものがあるのか」とびっくりしました。
 旅行で訪れる観光地などで売られている、いわゆる「観光玩具」は、みんな画一的ですよね。たとえば、日光に行っても、会津に行っても、同じようなものばかり並んでいます。それに比べて土人形や張り子人形、練り物などの郷土玩具は、それぞれの土地に根付いた歴史や伝統がありますし、作った人の優しさがこもっていると思いました。もともと、レコードなども集めていて「物を集める」のは好きでした。そこで郷土玩具も「集めて飾ってみたいな」と思って、集め始めました。

収集を始めたときには、きっと今のように7,000点以上になるとは、想像されなかったかと思います。今日取材でお邪魔している高梨さんのご自宅には、コレクションルームがありますが、これはいつごろ作られたものなんですか?

コレクションルーム高梨 38年前、家の増築に合わせて、どさくさに紛れるような形で作りました(笑)。家の中の各部屋にあちこち置いてあるより、家の者にとっても良いだろうということで、集約できる部屋を作ろうと。ガラス戸のついた棚を自分で設計して大工さんに発注して、いまのような形になりました。都内の収集家さんたちは収納場所に困っているという話をよく聞きますから、こうやって家にコレクションルームが持てることは、幸せだと思います。やはり、飾ってあげたいと思いますからね。それでも、今では棚がいっぱいになってきてしまって、全ての作品を飾りきることはできないという状態です。

写真上:膨大なコレクションが収められているコレクションルーム

このコレクションルームに飾ってある郷土玩具には、何か分類のようなものがあるのでしょうか?

高梨 基本的には郷土玩具の種類によって分けています。「天神物」「干支物」「金太郎」「武者物」「女物」「童子物」「だるま」「首人形」「福神」など、同じ種類のものを同じ棚に収めています。そのほか、自分が特に気に入っている産地のものは、産地別に固めて置いてあるところもあります。「干支物」の棚を見てみると、寅(虎)や丑(牛)や午(馬)や申(猿)は、郷土玩具にしたとき味わいがあるので多く、未(羊)や辰(龍)は少ない。巳(蛇)も、子どもには怖がられるのでしょう、あまり見かけません。そういう傾向も、収集していくうちに分かってくることですね。

松本節太郎 西遊記柏市の松本節太郎さん(注1)の作品も目に留まります。松本さんとは、ご交流があったのでしょうか?

高梨 松本節太郎さんの作品は「染谷」という川魚屋さんで買ったのが初めでした。松本さんは、同じ「郷土玩具の会」に所属していたので、集まりのあと、帰りが一緒になることもありましたね。仕事場に伺ったこともあります。私が知り合ったときの松本さんは、もう70代でしたが、非常に俊敏な動きで、メガネもかけずに制作していました。祭りや市で東京まで売りに出ても、売り上げが少ないと、電車に乗らず、東京から柏まで歩いて帰ってきたと言います。
松本さんの作品は、漫画的、コミカルで、非常に個性がありますね。また、よく研究されている。型で作ったものよりも、手びねり(型を使わずに手で作る作品)が多いですね。型がないものも多く、一代限りだったのは残念ですが、郷土玩具作者としては異色の人だと思いますね。会誌に、松本さんについての記事を寄せたこともあります。

●松本さんについての会誌記事のPDF 「おもちゃ」159号記事1・記事2

写真上:松本節太郎作「西遊記」

注1:松本節太郎さんの作品展は当ミュージアムのこちらからご覧いただけます。

 

集めていく楽しみ

郷土玩具を集めるにあたって、資料などは参考にされるのですか?

高梨  はい。資料がないと、どんな地域にどのような郷土玩具があるかわかりませんから。たとえば、川崎巨泉の『おもちゃ十二支』では、十二支それぞれの各地の人形を、実にバランスよく図録にしています。郷土玩具の資料の特徴は、味わい深く楽しめる版画が多いことで、古くて希少価値の高いものが多いですね。  また、明治期のおもちゃコレクター・清水晴風は『うなゐの友』という郷土玩具の図録を書き残しています。昭和では武井武雄の『日本郷土玩具〈東の部、西の部〉』がバイブル的な本で、これらも収集の参考にしています。

写真下:郷土玩具収集の参考資料の数々。

作品このように、さまざまな地域や時代の郷土玩具を集めると、どのような楽しみがあるのでしょうか?

高梨  人形の違いを比較対照できるというところですね。たとえば同じように見える人形でも、大きさの違い、型の違い、時代の違いや、手がけた人の違いによって、違った人形になります。たとえば、夫婦で旦那さんが作った人形と奥さんが作った人形を並べてみると、面相に特徴が表れていることがわかります。また、同じ題材の人形でも、産地による違いや、題材の扱い方の違いがあります。子どもと米俵を形づくった「童子人形 俵ぼこ」では、子どもが米俵を持ち上げている作品もあれば、前に抱えているものもある。同じ干支の午であっても、地域によって形が違う。そういった違いを比べられる楽しみがありますね。

スマホそれから、資料にあたったり、人に教えを請ううちに、だんだん知識が身について、人形を見るとどこの産地のものかや、どの時代のものかが判別できるようになってきます。歴史的背景などを知れば知るほど興味が湧いて、収集欲もわいてきます。興味を持った方に、どこの産地の、どの時代の人形か、などの知識を教えることができるのも楽しいです。

 

写真上:3つの地域の午(馬)の人形。左から「三春駒」「八幡駒」「木下駒」。

 

高梨さんは郷土玩具の中でも特に人形をたくさんお持ちですが、高梨さんにとって、人形の魅力とはなんなのでしょうか?

高梨  まず面相(顔)、それから色彩、模様ですね。型の独創性もあります。特に女性をかたどった人形は派手で、鮮やかです。また同じ赤色でも、沈んだ赤も鮮やかな赤もあり、まさに色彩の競演とも言うべき、日本の美が集約されていると思います。

ところで、高梨さんがご自分のコレクションを鑑賞するときは、どのようにされるのでしょうか?

高梨  私は郷土玩具を買ってくると、いつも三つの段階を踏んで鑑賞します。まずは、その月に買ってきた作品を玄関に飾ります。その次に、特に気に入った作品は寝床に持ち込んで眠りにつくときに鑑賞し、最後にコレクションルームに飾ります。コレクションルームに飾ってからも、あとから見たくなるものがあれば、寝床に持ち込みます。「また見たくなる人形」というのは、やはり、いい人形ですね。

高梨さんの、いま一番お気に入りの人形はどれですか?

高梨  この雛人形ですね。とても味わいがあるでしょう。植物染料で仕上げています。私が持っている中では一番古い人形で、江戸時代のもののはずです。

ひな人形

写真:高梨さんのコレクションの中では最も古い時代に作られた、仙台市「堤人形」の雛。

 

郷土玩具の魅力を伝える

高梨さんは、野田市郷土博物館で展示会をなさったり、会誌に寄稿されたり、テレビ出演で郷土玩具の魅力を発信されたりと、精力的に郷土玩具についての活動をされていますが、今後はどんな取り組みをしていきたいとお考えでしょうか?

高梨  コレクションの展示会は、また開きたいと考えています。また、郷土玩具の講座を行って、さまざまな人に郷土玩具のことを知っていただきたいと思っています。
●野田市郷土博物館での展示会のチラシPDF
郷土玩具というものは、もともと農家の副業として作られていたことが多く、郷土玩具作りで生計を立てるというのは難しい。辞めていく人も多く、現代ではこの先も廃れていってしまう文化だと思います。 昔は贈答文化として、親戚筋から男の子が生まれたときは天神の人形を、女の子が生まれたときには花魁の人形を贈る、といった習慣がありましたが、今ではほとんど見られなくなってしまいました。つまり、郷土玩具というのは、宿命的に廃れていく、いわば「滅びの美学」のようなものを持っていると思います。しかし、それを埋もれさせてしまうのは惜しい。だからこそ、多くの人に知ってほしいと思っています。

天神と花魁

写真:天神人形(左)・花魁人形(右)

今後は、どういった作品を収集したいとお考えですか?

高梨  収集については、今は、特に古いものや、自分好みのもの、珍しいもの、そして完成度の高いものを中心に集めたいと思っています。また、全国で約250ほどの産地が存在したので、1つの産地につき1つは作品をそろえたいと思っています。これからも人形の収集は続けていきたいですね。

これからも是非、郷土玩具の素晴らしさを発信していっていただきたいと思います。本日は、ありがとうございました。

高梨 ありがとうございました。

(2018年1月11日(木) 高梨さんご自宅にて)